『女帝 わが名は則天武后』シャン・サ
本書は、中国唐王朝3代皇帝・高宗の皇后であり、後に周王朝を築き、中国初の女帝となった則天武后の生涯を描いた物語である。
則天武后には、とかく悪い評価がつきまとう。
元は高宗の父である太宗の後宮に入ったのに、その息子と不義を働き妻の座を得た、皇后を追い落とすために我が子を殺して罪をなすりつけた、反抗的な息子を辺境の地へ追いやり、政治の実権を握った、情け容赦ない拷問を加えて敵を一掃した・・・等々。そこには、「目的のためなら手段を選ばない、残虐非道な悪女」の姿が浮かび上がってくる。
周王朝自体、わずか10年ほどの短命な王朝だったため、貞元の治の太宗や開元の治の玄宗などの有名な唐の皇帝の間に挟まれて、存在感も薄い。つまり、周王朝の政治および則天武后の実像については、分からないことが多いのだ。
本書は、正確な史実を元に、これまで則天武后につきまとっていた「負」のイメージを払拭している。
平民として嫉妬と陰謀渦巻く後宮に入り、命の危機にさらされながらも権力の中枢に登りつめるまでを、ドラマティックに描いているのだ。
ここで描かれるのは、権力者としての立場と、一人の女性としての立場の間で苦悩する姿である。則天武后が語り手として展開する物語は、彼女の、誰にも明かすことのできない寂しい心の内を見せてくれる。権力者とは、なんと孤独な存在なのだろう。
彼女は強大な権力と引き換えに、女性としての幸福を失っている。子どもや親戚は非業の死を遂げ、愛する者を次々と奪われていく。平凡な庶民として生きていたら、良き妻・良き母としてつつましやかな幸福を得られたかもしれない。
富や権力を持っていても、人間の心が満たされるとは限らない。幸福とは何なのか、改めて考えさせられた。
また本書は、「歴史の評価」について、一石を投じた作品といえる。
卓越した政治能力を発揮した則天武后を、後世の人々は、なぜ非難し、女帝の存在さえ否定しようとしたのか―。
そこには、後に台頭した男尊女卑の思想が密接に係わっている。
人物の評価とは、時の思想や政治によっていかようにも変えられてしまう、ということも教えてくれる作品である。[Amazon]
フランス(中国出身):吉田良子・翻訳



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