『信長の棺』加藤廣

信長の棺謎の多い歴史的事件の一つとして、有名な「本能寺の変」がある。
信長は、本当に明智光秀に殺されたのか?とすれば、光秀はなぜ謀反を起こしたのか?信長の遺体はどこにあるのか?等々・・・。
長短多い傑物・織田信長が、歴史上から姿を消した大事件だけに、興味は尽きず、多くの歴史ファンの知的好奇心をくすぐる。

この本能寺の変に、新たな解釈を試みた小説が、本書である。
語り手は、信長の伝記『信長公記』の作者・太田牛一。彼を、信長信奉者に据え、信長の伝記を執筆していく中で、本能寺の変の謎が明かされていく、というミステリー仕立てになっている。
前半は、主題が何か見えてこないし、物語のテンポも悪い。本書のおもしろさは、後半、それも最後の方にある。
光秀や秀吉たちがどれだけ探しても見つからなかった信長の遺体。牛一が信長の伝記執筆の過程で、その行方を突き止めていく展開には、ぐいぐい引き込まれる。事実はどうか分からないが、作者の推理は説得力があり、小説として充分楽しめる。
また、信長の功績についても、「コンフェイト(金平糖)」と「暦」の二つの証拠をもって持論を展開している。単に、「好き」という感情だけで、信長擁護論に与している訳ではないところに、好感がもてた。

年齢や「作家」という立場などの共通点から、語り手の太田牛一は、作者の分身なのだろう。
牛一の口を借りて語られる信長の長所は、他のどの言葉より熱く、作者の信長好きが、ひしひしと伝わってくる。

「この俺が信長さま好きなのはな、欠点も多い、残酷な所も人一倍のお方じゃが、加算できる評価の山が、他のどの英雄より飛びぬけて高いからよ。」(P.98)

本書は、信長の実像に迫った執念の一冊ともいえるだろう。[Amazon]

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