『秀吉の枷(上・下)』加藤廣

秀吉の枷 (上)秀吉の枷 (下)前作・『信長の棺』では、「信長公記」の作者・太田牛一が語り手となり、本能寺の変の新解釈が展開された。
今回は、本能寺の変のもう一人の主役・豊臣秀吉の視点から語られていく。
物語としては独立しているので、本書だけでも充分楽しめるが、やはり前作を先に読んでおいた方がよい。謀反を起こした明智光秀と、最終的に信長を死に追いやった豊臣秀吉―。犯人側から語られる本書は、本能寺の変の真相に、より迫ったものといえるだろう。

非道でしたたかな面の秀吉を見せていた前作から一転、本書では、苦汁の決断を迫られた秀吉の胸の内が、悲痛なまでに切々と語られていく。
なぜ、秀吉は本能寺の変で大博打に打って出たのか。作者は、当時置かれていた秀吉の立場や、信長との方向性の違い等、さまざまな理由を挙げている。
そこには、下克上の世界で生き抜かなければならない男の苦難が読み取れ、前作で受けた秀吉のイメージを覆された。ものごとというのは、一面だけではなく、四方八方から光を当てて見なければ、本当の姿は見えてこない。単純だけど忘れがちな視点を、改めて気づかされた。

個人的には、前作より本書の方が良かった。それは、主人公を豊臣秀吉という有名な歴史上の人物に据えたからではなく、立身出世の代名詞のような成功者の孤独を、心の深淵まで降りていって丹念に描いているからだ。
本書で描かれる秀吉は、孤独だ。天下人となると、その孤独はますます大きくなって秀吉を苦しめる。
信長を助けなかった負い目、子どもができない焦り、忍び寄る老いの恐怖。権力者の悲哀が、読む者の胸を打つ。自分は信長とは違うと思っていたのに、権力を持つと同じように残虐な振る舞いをしている自分に気づき愕然となる場面が、印象的だった。
人間の幸・不幸とは何なのか、考えさせられる一冊だ。[Amazon]

  1. 「秀吉の枷」

    枷(かせ): 首や手足に嵌めて、自由に動けない様にする物。人の行動を束縛する物。昨年、加藤廣氏が著した小説「信長の棺」の読後感を記事にした。1582年に起きた本能寺の変で、重臣の明智光秀によって命を絶たれた織田信長。しかし焼け落ちた本能寺の跡からは、信長

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