『夜市』恒川光太郎
書き出しの一文を読むだけで、すうっと、物語に引き込まれる。「夜市って何?」と疑問に思った者はすでに、この作品の持つ不思議な力に魅入られているのだ。
夜市は、市場だ。それは、夜開かれる、特別で不思議な市場。
そこでは、欲しいものは何でも売っている。〈黄泉の河原で拾った石〉、〈なんでも斬れる剣〉、不思議な生きもの、老化を調整できる薬、能力や自由といったものまで売り出される。ただし、客は買い物をするまで、そこから出ることはできない。
夜市へ出かけた二人の若い男女。彼らが夜市で出会ったもの、買ったものの背景には、男の悲しい過去があった。
日本ホラー小説大賞受賞作の、妖しく悲しい物語。
これは本当に、ホラー小説のジャンルに入るのだろうか。
幻想的で、美しい世界は、恐怖というものは感じさせず、どこか懐かしさすら覚える。ホラー小説が苦手な者でも楽しめる作品だ。作風で言えば、ノスタルジー色の濃い朱川湊人の作品と似ている。
この作品の素晴らしさは、単純に不思議な世界を描いただけではないことだ。まるでミステリーのような展開に、読者はいい意味で期待を裏切られる。最後に明かされる真相に、しばし呆然としてしまった。
本書には、他に、「風の古道」が収められている。これは、人間が入ることのできない不思議な道に迷い込んでしまった少年の物語。この作品もまた、独特な世界観を持った味わい深いものだ。
どうも作者は、物語の登場人物を「迷い込ませる」のが好きなようだ。だが、本当に迷い込ませたいのは、読者なのかもしれない。
作者は、本書がデビュー作という。処女作にしてこの完成度の高さは、本当に驚かされる。次回作が楽しみな作家だ。[Amazon]




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