『金沢城のヒキガエル』奥野良之助
本書は、金沢城址の池に生息するヒキガエル1526匹を、9年間にわたり調査した記録である。誕生・成長・繁殖・移動というヒキガエルの一生を観察、記録することで、彼らの生活史を明らかにしようと試みている。
ヒキガエル一色で埋め尽くされた本書は、生物読み物であると同時に、名エッセイである。何といってもおもしろい。軽妙な筆致で、生物学に興味がない読者でも、飽きさせない。生物学ってこんなにおもしろいものだったのか!と新しい発見の喜びがある。高校の時、こんな授業だったら生物がもっと好きになったのに。
また、随所にある挿絵は、ヒキガエルへの親しみをさらに増すものとなっている。「蛙体長自動測定器」(著者が考案・命名)なるものを使って測られているカエルの図、繁殖期におけるメスを待つオスの図などは、真面目なタイトルと絵のギャップが妙におかしかった。
著者は、以前は須磨海浜水族園で働いていた、金沢大学助教授。時は1970年代で、まさに学園闘争全盛期。学生と大学側の交渉でもめていた大変な状況の中でも、毎日金沢城に足を運んで調査を続ける著者に、研究者の姿勢を見る思いがする。
本書では、著者の論文中毒だった過去、現在の研究者の立場、学園闘争の状況など、ヒキガエルの調査までの前置きがいやに長いと思っていたら、最終章を読んで納得した。ヒキガエルの生態を通して、著者は学問の意味を改めて問い直しているのだ、ということに。
すべての生物を「競争原理」で捉えようとする社会生物学。それに対し、著者は生物の世界は人間の思考をはるかに超えた複雑多様な存在である、と人間の傲慢さを誡めている。
確かに科学は数字によるデータ化が大事だろう。しかし、「これではせっかくの生き物の面白さを台無しにしてしまう」という著者の論は、科学偏重の現在にこそ、重く受け止めなければならないのではないだろうか。[Amazon]



奧野良之助氏は、2010年1月23日、逝去されました。
謹んでお悔やみ申し上げます。