『眠れぬ真珠』石田衣良
主に20代の男女の恋愛を描いた、『スローグッドバイ』、30代の『1ポンドの悲しみ』につづく(『愛がいない部屋』を除けば)恋愛小説が、本書である。ずばり、テーマは、大人の恋。
主人公は、45歳の独身女性。
プロの銅版画家として確固たる地位を築いているものの、徐々に衰えていく自分の肉体に焦りと不安を感じている。生活は、仕事と不倫相手とのたまの情事意外何もない、退屈なもの。
自分の人生に潤いを感じられない女は、17歳年下の映画監督志望の男と出会い、次第に心引かれていく。
「年の差の恋愛」という題材は、これまでドラマや映画でさまざまに扱われ、読む前から大体内容は想像できる。
既に出尽くした感のある、ありふれた題材を、作者はなぜ選んだのか。その答えは、本書を読めばおのずと明らかになるだろう。
確かに、大枠のストーリーは過去の作品群と大差はない。けれど、そんな表面的なストーリーの下には、深淵で奥行きのある世界が広がっているのだ。
ここで描かれるのは、恋愛を通して自らを変えていく力である。それは、奇跡と呼べるほど、神秘的で美しい。
刹那主義とは違う、今この時を真剣に生きようとする姿勢は、読み手に感動と勇気を与えてくれる。
また、私がこの作品に共感を覚えるのは、45歳の女性を等身大に描いているからだ。女性の、スタイリッシュな生き方や仕事に対する誇りといった強さだけでなく、忍び寄る老いの恐怖と戦い、更年期障害に苦しみ、若い女性に対して劣等感を抱くといった弱さ・もろさ・醜さまでも(といっても、少々格好良く描きすぎなのだが)。
そして作者は、その全てを受け入れた上で、「愛しい」という感情で包み込んでいる。あらゆる年代も、そのままの姿で美しいのだ、という肯定的なメッセージが伝わってくる。
まるで映画の1シーンを見ているような会話が印象的だ。
年の差の恋に臆病になる女が、「わたしたちには未来なんて、ないのよ」と言う。それに対して男はこう応えるのだ。
「でも、現在がある」と。[Amazon]



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