『信仰とテロリズム―1605年火薬陰謀事件』アントニア・フレイザー

信仰とテロリズム―1605年火薬陰謀事件Vフォー・ヴェンデッタ [DVD]独裁国家に反旗を翻すテロリストを描いた映画・『Vフォー・ヴェンデッタ』では、「11月5日を思い出せ」というメッセージが繰り返され、1605年11月5日に起きた火薬陰謀事件について触れている。
イギリスでは記念日となっているほど有名な事件らしいが、私は全く知らず、気になって本書を手に取った。

まず、本書を読む前提として、イギリス国教会ができた経緯は知っておくべきだと思う。この知識がないと、読み進めるのが困難だし、理解が不十分になるおそれがある。
もちろん、他の文献にあたった方がいいが、「訳者あとがき」でヘンリー8世の時代に遡ってきちんと解説されているので、そちらを先に読むことで不安は解消されるだろう。

火薬陰謀事件とは、イギリスで発覚した政府転覆未遂事件である。抑圧されていたカトリック教徒の若者たちが、1605年11月5日の開院式に議事堂を爆破し、国王ジェイムズ1世らを殺害しようと企てたが、実行前に露見して失敗に終わった。

本書は、この事件の全貌を明らかにするためエリザベス1世の晩年から書き出している。
前半は、ジェイムズ1世の即位の経緯、当時のイギリスを取り巻く世界状況、カトリック教徒に対する迫害などが、丹念に書かれている。
単なる宗教上の争いというより、政治的な思惑が絡んでいることがよく分かる。政府の、カトリック教徒への弾圧は容赦なく厳しいもので、このあたりは読んでいて心が重くなる。
ところが、この陰謀をほのめかす一通の「曖昧かつ胡散臭い」書簡が政府側に届けられてから、ミステリの様相を呈し、(死者が出ているからこんな表現は不謹慎かもしれないが)俄然面白くなってくる。

首謀者の大半は死亡し、残された証言は拷問によるものだから、客観的に信頼に足る資料は少ない、と筆者は言う。その中で、事実と推論を織り交ぜながら、事件の真相に迫っており、読み応えがある。
私は博識でも、ましてや歴史学者でもないから、筆者の推論の矛盾を突くことはできない。
ただ、女性信徒の純粋な信仰について多く書かれているにもかかわらず、同じカトリック教徒で、テロという凶行に走った者と、敬虔な信徒との違いは何だったのか、という指摘が不十分だったのが残念だ。

この事件は、国家の安全保障や、裁判制度、政府によるプロパガンダ、信仰のあり方など、多くの問題を提起している。
大国の指導者やテロリストたちが「神」の名の下に争う現代、火薬陰謀事件は400年前の古い出来事とは思えない。[Amazon]

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