『名もなき毒』宮部みゆき
今、日本は病んでいる。
いじめ、自殺、虐待、殺人、汚職・・・。痛ましく憤りを抑えることのできない事件が連日のように報道され、新聞を見るのが嫌になるくらい、暗いニュースばかりが紙面を埋める。
「何かがおかしい」という漠然とした不安。けれど、その「何か」をうまく言葉にすることができない。それが余計にもどかしく、イライラさせる。
この、形も名前もない「何か」を掬い取り、言葉を補うことで、なんとかその正体を探ろうと試みたのが、本書である。
宮部みゆきは、その「何か」を、「毒」という共通項で一括りにし、物語を展開させる。
青酸カリによる連続無差別毒殺事件から端を発した物語は、やがて目に見えず形もない「毒」の存在まで暴き出していく。
連続無差別毒殺事件は、果てしなく広がる闇の世界のほんのとば口にすぎない。本書の主眼は、恐れ・妬み・憎しみといった人々の心の中にある「毒」を描くことにある。
シックハウス症候群、土壌汚染問題、インターネットの闇サイトといった現代社会にはびこる「毒」を、人間の負の感情と絡めて描く手腕はさすがだが、話題を広げすぎて焦点がボケてしまったように思う。
主人公・杉村を悩ますアルバイト女性は、もっともらしい理由が書かれていても、やはり極端なケースとしか思えない。そのような言動に至った彼女の内面を深く描くことが、人々を蝕む「毒」を明らかにすることだと感じるのだが。
作者の筆力で読ませるものの、同じように社会の暗部を描いた『火車』のキレ味に比べると落ちる。
ネット上では、好意的な意見が多数を占め、シリーズ化を望む声も多い。
しかし、私は本書を傑作だとも思わないし、今後シリーズ化されても読まないだろう。前作『誰か』より面白くなったとはいえ、杉村が主人公である限り、好きにはなれない。どうしても私は、この人間に「偽善」の匂いを感じてしまうのだ。自分の家族すら満足に守れずに他人を幸せにできるのだろうか。義父や同僚など、他のキャラクターが魅力的に書かれているだけに、杉村を主人公に据えたことが残念でならない。[Amazon]



「名もなき毒」宮部みゆき著、読んで見ました。
「名もなき毒」宮部みゆき著、読んで見ました。「名もなき毒」宮部みゆき著、読んでみました。財閥企業の今多コンツェルンで社内報を作る編集記者であり、その会長の娘の夫と言う、主人公の「杉村三郎」の立場と、寛容で優しすぎる人格設定は悪くは無いが、それは物語をあ…