『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』大竹文雄

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)経済学に足を踏み入れた者が最初に学ぶものといえば、「価格の決定」や「政府と企業と家計の役割」。
しかし本書には、需要・供給の曲線グラフや、ケインズも、難しい専門用語も、一切出てこない。最初の数ページを読んだだけで、一般的な経済書とは随分イメージが違うことに気づくだろう。

お金がない人を助けるには、どうしたらいいのですか?
小学生の素朴な問いに、「経済学的」に考え、答えようと試みたのが、本書である。

この問いは、単純だが本質を突いたものだ。それは、世界の知能を結集しても、未だ経済学が解決できていない「富の分配」の問題である。着るものや食べるものに困る日々を過ごし、やむにやまれず犯罪に走る人たちがいる一方、大きな家に住み、美容や健康に大金をかける人たちがいる。
貧しい人は、怠け者だからいつまでも貧しいままなのか?それとも、「努力」や「能力」だけではどうすることのできない「運」というものがあり、それが人生を左右しているのか?
そもそも、「経世済民」を語源とする経済学の目的は人々の幸福を実現することなのだから、お金と幸福の量がある程度連動する事実を鑑みると、最初の問いは経済学そのものといえるだろう。

日本では最近、「格差社会」の問題が取り立たされるようになってきた。本書では、そういった格差や不平等の問題を含め、「経済学的」に考えるとはどういうことかを、さまざまな事例を通して分かりやすく解説している。
少しでも経済学を齧ったことがある人にこそ、本書を手に取ってほしい。「知識」ではなく、「知恵」を学ぶことができるはずだ。

著者曰く、「『経済学的思考のセンス』がある人とは、インセンティブの観点から社会を視る力と因果関係を見つけだす力をもっている人」だという。私たちは、無人島で自給自足の生活をしない限り、経済生活から離れることはできない。であるなら、経済学的思考のセンスを磨くことは、より良く生きる上でとても有意義なことである。
本来なら学校では、専門的な知識より、最初に経済学的思考を教えるべきではないだろうか。その意味で本書は、一般的な経済書に取り掛かる前に読むのに、最適な一冊である。[Amazon]

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