『世界はおわらない』ジェラルディン・マコックラン
『不思議を売る男』を書いた、ジェラルディン・マコーリアンとよく似た名前だなあと思い、後ろに載っている作者の略歴を見たら、まさにその人だった。マコックランと発音するのが正しいのだろう。
マコックランは、ストーリーテラーだ。彼の創造力と構成力は、飛び抜けている。日本では、恩田陸がそれに近いと思う。
本書は、旧約聖書の『ノアの箱舟』をモチーフにした物語。
皆が知っている有名な物語ほど、どういうふうに話を持っていくのか、作者の力量が試されるといえる。読者は、いい意味で期待を裏切られることを望んでいるのだから。
彼は、このハードルを軽々とクリアしてしまう。本書では、『ノアの箱舟』であって、そうでない、まったく新しい世界を創り出すことに成功している。
物語の大半は、聖書には出てこない、ノアのひとり娘・ティムナによって語られる。
洪水に飲み込まれるあらゆる生き物たち。救いを求めて箱舟にむらがる人々を近づけまいと突き落とし、追い払い、殺すノアの家族―。
何千年も昔に書かれた話が、リアルに現代に甦ってくる。考えてみれば、自分たちだけ助かるということは、他を全て見捨てる、ということと同義なのだ。
ティムナは、信心深く意志の強い父親を尊敬していたが、次第に自分たちのしていることが正しいことなのか、疑問に思い始める。
作者はティムナの姿を借りて問いかける。「神とは何か」、「神を信じる、その人間自身は正しいものなのか」と。
時おり挟まれる、動物たちの独白が効果的だ。それぞれ自分の「神」に従って行動している。そのために生まれる衝突が、皮肉で悲しい。
めまぐるしく展開される物語は、読む者に息つく暇を与えない。そしてエンディングに辿り着いた時、不思議とほっとする。作者は、人間の心の闇を徹底的に見せることで、それでも存在する「善性」を証明したかったのではないだろうか。
タイトルの『世界はおわらない』という強い否定の言葉が、すとん、と自分の中で落ち着くのだ。[Amazon]
イギリス:金原瑞人・翻訳
Not the End of the World
Geraldine McCaughrean




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