『愛の矢車草 橋本治短篇小説コレクション1』橋本治

愛の矢車草―橋本治短篇小説コレクション (ちくま文庫)『桃尻語訳枕草子』を読んで、「変わった作家だなあ」と思っていたが、本書もそんな橋本治ワールド全開の作品集である。

隣に暮らす予備校生の、ある「習慣」を隠れて覗き見る女子大生たち。
反省の色を見せない中年の下着泥棒。
レズビアンのトラック運転手と、家庭に満たされないものを感じる中年女性。
小学6年生で一児の父になってしまった高校生。
本書には、少し変わった愛のカタチが、4編収められている。その名も、「愛の陽溜り」「愛の狩人」「愛の牡丹雪」「愛の矢車草」と、全てのタイトルの上に「愛」がついている。

「変態がグルッと回って“愛の”になって、美しいんだか美しくないんだかよく分からないが、へんに納得してしまうマヌケな世界」を意図した、と作者自身が述べているように、単なる美しい愛の物語ではなく、孤独で哀愁漂う作品となっている。「愛」ではなくて、「哀」の間違いではないか、と思うほど。
ミスマッチの妙、とでもいえようか、一つだけならどうということのない事柄なのに、二つ以上合わさることで不思議な世界を創り出している。
覗き、窃盗、同性愛、小児性愛、という題材が、暗く重いものとならず、カラリと明るい作品に仕上がっているのは、作者の性格なのだろうか。

個人的には、2作目の「愛の狩人」が良かった。
下着泥棒の持論は論理的で、彼が窃盗犯ということをつい忘れてしまいそうになる。
しりあがり寿の挿絵と相まって、人間の抱える孤独がもの悲しく表現されている。[Amazon]

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