『ある秘密』フィリップ・グランベール
ひとりっ子で病弱な主人公の少年は、空想の中で兄を作り上げ、孤独を紛らわしていた。
そんなある日、屋根裏部屋で本当に兄が存在していた痕跡を見つけ、疑問に思い始める。両親が隠し続けてきた秘密とは何か。ある家族の秘密と、その背後にあったナチス・ドイツの残虐な行為を、少年の目を通して描いた物語。
読後、この作品が作者の自伝的小説ということを知り、驚いた。抑制の効いた落ち着いた文体、登場人物と自分を突き放し、一貫して傍観者の立場で描いた物語には、当事者の持つ起伏の激しい感情は、感じられないのだ。
よく、「リアリティがある」という表現が小説の賛辞として使われるが、本書は、事実をフィクションにすることで、より真実に迫った作品といえる。
語りの手法は、少し変わっている。少年が両親の過去を知る老女の話を頼りに、少しずつ物語を創り上げていく。両親の口からは一切語られないし、少年も訊かない。その、微妙な距離感が、読む者の心をぐっと掴むのだ。
本書では、ナチス・ドイツの弾圧に苦しむ民族の悲劇の中に、男女の三角関係が描かれる。
生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた人たちや、人を愛し、家族を守ろうとする人たち―。ここには、人間の苦しみが凝縮している。両親が必死に守ろうとした秘密は、決して開けてはいけないパンドラの箱のようなものだ。秘密が暴かれると、苦しみに満ちた過去を噴出させてしまう。
少年は、この秘密に一人向き合い、物語を創ることで自分の中で折り合いをつける。最初は弱かった少年が、過去の悲劇を知り、両親の負った心の傷を思い、次第に強くたくましくなっていく様子が、淡々と描かれる。いわば、この作品は、少年の成長物語ともいえるのだ。
短い物語だが、心にずっしり重く響く佳作である。[Amazon]
フランス:野崎歓・翻訳



ある秘密
ある秘密フィリップ グランベール (2005/11)新潮社この商品の詳細を見る一人っ子で病弱な少年が、兄の幻想を抱く。ある日母親と一緒に上がった屋根裏で、本当に兄がいた形跡を感じる。15歳になった少年に、戦時下を両親と暮
『 ある秘密』 フィリップ グランベール (著)
父さんと母さんは何か隠してる…。ひとりっ子で病弱なぼくは、想像上の兄を作って遊んでいたが、ある日、屋根裏部屋で、かつて本当の兄が存在していた形跡を見つける。1950年代のパリを舞台にした自伝的長篇。