『自負と偏見』ジェーン・オースティン

自負と偏見 (新潮文庫)海外文学を読むにあたり、悩むことが二つある。
ひとつは、何を読むか、ということ。もうひとつは、どの訳で読むか、ということ。特に、有名な作品ほど、複数の出版社から翻訳本が出されているので、どれを読むか、いつも迷ってしまう。訳で、原書の雰囲気の伝わり方や、読みやすさが違ってくるから、余計に悩む。

この作品は、以前、岩波文庫(富田彬・訳)から出されている『高慢と偏見』を読んで、物語の内容は知っていた。
今回、名訳と定評のある中野好夫訳(新潮文庫)と読み比べ、翻訳の違いを楽しむのも読書の醍醐味の一つだろうと思い、手に取ることにした。だからこれは、作品そのものの書評というより、翻訳の比較である。

物語全体を通しては、本書の方が岩波版よりくだけた、軽い感じになっている。田舎の人々の生活や、主人公のエリザベスの明るい性格などを考えると、中野訳の方がユーモアがあり、作品の雰囲気を上手く伝えている。人々の欠点を、風刺を効かせて明るく描くという点では、本書の方が優れているだろう。
岩波版は、表現が硬いし、分かりにくいところもいくつかあった。

ただ、中野訳では、語尾に「~ねえ」という言葉を多用しているのが気になった。現代の感覚からすると、古臭く感じられる。
私が訳の違いで特に面白いと思ったところは、なぜ自分を気に入ったのか、とエリザベスに尋ねられて、ダーシーが答えた言葉。

岩波 「あなたの心が生き生きしてたので」
新潮 「あなたの心の、そのピチピチしたところがでしょうね」
原文がどうなのか、非常に気になる。個人的には、「ピチピチしている」と言われても、全然嬉しくないのだが・・・。

中野訳の方が良い、という意見をよく見聞きするが、それは好みの違いだと思う。
両方読み比べてみて、それぞれに長短あることが分かる。中野訳では会話が生き生きとしているし、富田訳では、日本語の表現が美しい。
もっとも、この作品の世界観は中野訳の方が堪能できるので、これから読もうと思っている人には、こちらをお薦めする。[Amazon]

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