『キス・キス』ロアルド・ダール
『チョコレート工場の秘密』に代表される児童文学で有名なダールだが、彼の魅力はなんといっても大人向けの短編にあると思う。ブラックユーモアたっぷりで、最後にあっと言わせるキレのよい作品は、短編を読む醍醐味を存分に味わうことができる。
ただ、彼の作品全部が面白いわけではない。持ち味のブラックユーモアもキレがなければ、ただの嫌味な作品に成り下がってしまう。むしろ、何を言いたいのか分からないような、つまらない作品の方が多いかもしれない。
しかし、その中でキラリと輝く秀作は、他の凡作の評価を打ち消してしまう、圧倒的な力を持っているのだ。
本書には、11編の短編が収められている。
その中で私のベスト3は、「女主人」、「牧師のたのしみ」、「ビクスビイ夫人と大佐のコート」。もうひとつ選ぶなら、「天国への登り道」だろうか。「女主人」は、アメリカ探偵家クラブ賞で最優秀短編賞を受賞した作品だそうだ。
ダールの作品は、冒頭の描写で読者を引っ張り、読み進めるうちに物語の世界から抜け出せなくしてしまい、ラストであっと言わせる。
「女主人」は、不気味さがじわじわと背中を這い上がってくるような読書体験を味わえる。
「牧師のたのしみ」は、詐欺師の男と無知な農夫のやり取りが、何ともいえずおもしろい。冒頭の、のどかな田園風景の描写が作品にうまく生きている。
「ビクスビイ夫人と大佐のコート」は、浮気相手にもらった毛皮のコートを夫にバレないように着るために画策する女の話だが、ラストを読んで、「似たもの夫婦」という言葉が頭をよぎった。
この三作品を読むだけでも本書を手に取る価値は充分にあるだろう。
ただ、なぜ本書が「異色作家短篇集」の一つとして出版されているのか、理解に苦しむところだ。ダールほど、「正当な」短編を書く作家はいないと思うのだが。[Amazon]
イギリス:開高健・翻訳
Kiss/Kiss
Roald Dahl




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