『光抱く友よ』高樹のぶ子

光抱く友よ (新潮文庫)芥川賞受賞の表題作と、「揺れる髪」「春まだ浅く」の三短編を収録した作品集。
友情、親子愛、男女の愛、と扱うテーマはそれぞれ異なるものの、三編とも他者との関わりという問題を深く追求した作品である。

大学教授の父親を持ち、おとなしく優等生の相馬涼子と、アル中の母親を持ち、早熟で不良っぽい松尾勝美。「光抱く友よ」では、境遇も性格も違う二人の女子高校生の友情を描いている。およそ共通点のない二人が惹かれあい、友情を育んでいく様子を、高樹のぶ子の筆は丹念に描き出す。作品には、女性の視点ならではの描写が散りばめられている。
クライマックスは、涼子が家に松尾を招き家族と食卓を囲む場面。煙草を吸い、投げやりな態度で家族と接する松尾に対する、涼子の気まずい心理がうまく表現されている。

うちはね、松尾さんが必死の力で何かやってるときは、それがどんなに人並みはずれていても、いいな、と思ってきた。だけど、どこかでふっと力を抜く。投げる。そしたら松雄さんは急に見苦しくなる。どうしようもない不良になる。

「揺れる髪」は、祖母、母、娘の三代にわたる女性の姿をゆるやかに重ね合わせながら展開される物語。理解し難い「異物」として娘を見ていた母親が、ある出来事をきっかけにして娘のことを受け入れるようになる。母と娘の間に新たな信頼関係が生まれていく様子を「娘の髪を切る」行為を効果的に使うことによって、爽やかな仕上がりにしている。

「春まだ浅く」は、男女の愛の形を問う作品だ。結婚を約束した若い男女は、魂の結びつきを求めて、体の関係を持たないでおこうと誓い合う。それこそが、精神力の勝利とでもいうべき、高等な愛の形だと信じて―。
しかし、そこへ女の友達―性に対して奔放な女性―が現れ、二人は改めて愛とは何かを考え直す。最後の、男性から女性に宛てた手紙はとても誠実な内容で、こんな男性が存在するのか、と驚いてしまった。この手紙の場面は、夏目漱石の『こころ』を彷彿させる。

良い文章かどうかの基準のひとつとして、リズム感の良さが挙げられると思う。高樹のぶ子の文章はその点で優れている。彼女の作品は、声に出して読む方がその真価を発揮するのではないだろうか。[Amazon]

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