『ふたりきりの戦争』ヘルマン・シュルツ

ふたりきりの戦争戦争を描いたドイツ作品には、たくさん優れたものがあるが、本書のような切り口を初めて読んだ。
舞台は、第二次世界大戦末期のドイツ。
戦争に行った兄はロシアで行方不明になり、ナチスに反抗した父は強制収容所へ送られ、母は空襲の混乱で行方知れず。ひとりぼっちになった14歳の少女・エンフェンは、農家へ預けられ、その村でロシアから労働者として強制的に連れて来られた若者たちと出会う。敗戦が濃くなった頃、外国人労働者たちが村から連行されることを知ったエンフェンは、ロシア人の少年・セルゲイを逃がそうと決意。
本書は、人種の違いを越えて育まれた二人の交流を、生き生きと描いた作品である。

出会うはずのない二人の若者を、戦争という非常事態が引き合わせる。なんという皮肉なことか。人種・文化・性別の異なる二人は、戦争の犠牲になった数多くの子どもたちを代表した存在といえる。家族を失い、自らも命の危険にさらされる。そんな極限状態の中、エンフェンとセルゲイは、明るくたくましく生き抜き、次第にお互いを認め合うようになっていく。
二人の62日間にも及ぶ逃避行の結末は、冒頭で明かされる。本書の眼目は、逃避行を通して二人が何を見て、どんな人たちと出会い、どう感じ、どのように成長していくか、ということだ。
保身のために二人を捕まえようとする大人がいれば、怯えながらも救いの手を差し伸べる大人もいる。作中でセルゲイが、「ドイツには、神を信じている人がたくさんいるね」と言う場面が印象的だ。信心深いのに、たくさんの人たちを見殺しにする矛盾が、痛烈に批判されているのだ。

二人の間には、愛情とも友情とも呼べない感情が漂っている。それは、二人の年齢が、子どもと大人の中間であることと、無縁ではない。
少しずつ大人になっていく二人の若者の性の芽生えを、作者はとても美しく描いている。月の光に照らされながら湖で水浴びをする場面は、本書の白眉といえる。男女の差異を認め、お互いを大切に思いやる姿は、泣きそうになるくらい切ない。
人を殺し合う戦争と対極にある行為だからこそ、戦争の愚かさも、人を愛し合う素晴らしさも、しっかりと伝わってくるのだ。[Amazon]

ドイツ:渡辺広佐・翻訳

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