『人形の家』イプセン
この作品のストーリーは、手塚治虫の作品に出てきて(たしか、『七色いんこ』だった)知っていたが、改めて読んでみると作品の投げかける問いの大きさに圧倒させられた。
人を愛するとはどういうことか、結婚とは何か、自分とは何か、そして女性の幸せとは何か、といったさまざまな問題を考えさせる、深い内容の作品である。
主人公のノーラは、夫に愛され、何不自由のない幸せな生活を送っていた。しかし、彼女には、夫に言えないある隠し事があった。その秘密が暴かれた時、彼女は自分の人生を見つめ、今までの日々がまやかしの幸せであったことに気づく。夫の愛情は、まるで人形に向けられるような「愛玩」の情であり、彼女は自分の意思で生きてはいない、ということに。
訳者はあとがきで、この作品を愛と結婚についての物語である、と述べている。
それに私は、「自我」を付け加えてもいいと思う。この物語は、ノーラに家族との別れをもたらす代わりに、自我の芽生えをもたらしているのだ。
人形のように可愛がられていたこれまでの生活は楽しかったかもしれない。けれど、そんなままごと遊びのような幸福はもろく、長くは続かない。まず自分自身が何者であるかを見極め、主体的な自己を確立することからはじめなければならないのだ。
子どもを置いていくというノーラの決断には共感しかねるが、彼女は(彼女の思う)奇跡が起きなかったことで、真に人形の家の呪縛から解放されたのではないか。
「あたしは、何よりもまず人間よ、あなたと同じくらいにね」とのノーラのセリフは、ノーラの夫・ヘルメルを非難する言葉であるとともに、彼女の心の解放宣言ともとれる。
この物語は、130年前の遺物ではない。ノーラのように、自分を見失ってはいないか。ヘルメルのように、恋人や家族を自分の所有物のように扱ってはいないか。今なお、一人一人の胸に問いかける作品なのである。[Amazon]
ノルウェー:原千代海・翻訳



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