『脳と音読』川島隆太・安達忠夫
今、(第何次目かの)「脳ブーム」である。書店には「脳」に関する本が平積みで並べられ、人々は、「ボケない」「頭が良くなる」という言葉に敏感に反応する。
本書は、その生みの親の一人である脳科学者、川島隆太教授と、ドイツ語学者であり自身で教育実践も行っている、安達忠夫教授による往復メール形式の共著である。
科学者と教育者が出会う時、どんな相乗効果が生まれるのか。まえがきにもあるように、初めは両者とも手探りの状態だったに違いない。しかし、脳科学の専門家ではない安達氏から川島氏への素朴な質問は、読者の目線に近いもので、難しい話が分かりやすく理解できるようになっている。
現場の教育者からの生の声に川島氏が新たな研究テーマを見出すなど、その思考の過程を苦もなく俯瞰できる読者は、とんでもなく贅沢な立場にいるのではないか、と思ってしまう。
タイトルは、「脳と音読」だから、音読が脳に及ぼす影響を中心に語られているが、大きなテーマは、「子どもの教育」だ。薄っぺらな議論ではなく、未来を担う子どもたちに相応しい教育とは何か、ということを両者とも真剣に模索している。
その中で川島氏は、「科学者の遠視眼、現場の近視眼」という言葉を使っており印象に残った。それは、決して科学は万能でなく、実際に子どもと接している現場の教育者からのアプローチもあって教育は実を結ぶのだ、という理解でいいのだろう。
最後に、安達氏が被験者になり、意外な実験結果が得られたことは興味深い。素読と朗読は同じようなものだと思っていたが、素読にはまだ科学では分からない、もっと秘められた深い意味が潜んでいるのではないか。
新たな知的好奇心をくすぐる余韻のある終わり方となっている。[Amazon]



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