『まぼろしの忍者』広瀬寿子
物語は、ある少年の失踪から始まる。
少年・高橋渉は、亡くなった父親の約束を果たすため、赤目四十八滝へ行き、400年前にタイムスリップする。
偶然に何かの力が働いてタイムスリップしてしまう話はよくあるが、主人公の意思でタイムスリップするのは、珍しい。それも、自分がタイムマシンを作ったから試したいという訳でもなく、過去(未来)を知りたいという訳でもなく、ただ死んだ父のために。
最初は、渉が時を越えた時に、滝を落ちて頭を打った衝撃で記憶喪失になっているので、なかなか話の筋が見えてこない。なぜ、渉はタイムスリップすることを決意したのか。渉を助けた少年忍者たちは、一体何者なのか。
この作品は、読み進めるうちに、徐々に内容が見えてくる仕掛けになっているので、ページをめくるのがもどかしく感じるほどだ。
舞台は群雄割拠する戦国時代なのだが、本書の重点は織田信長など有名な武将たちではなく、専ら渉と少年忍者たちに置かれている。
この作品はいわば、少年たちがひとつ大人になる姿を描いた物語だ。
父への愛から、たった一人で時を越え責任を果たそうとする渉。親方の忍者の手から逃れ、脱皮しようとする忍者たち。勇気を出して自分の中に巣くう恐怖心に立ち向かっていく少年たちの姿が、すがすがしい。
また、本書では、「仲間を信じ、助け合う」というメッセージが込められている。
物語の深みには少し欠けるが、友情・勇気・親子愛を爽やかに描いた本書は、若い年代の読者におすすめの一冊である。[Amzon]



コメントはまだありません。