『父の詫び状』向田邦子

父の詫び状 <新装版> (文春文庫)” /></a>何度読んでも、いいなあ。<br />
向田邦子のエッセイは、なんだかしみじみするのだ。<br />
ひとつの記憶が別の記憶を呼び起こし、彼女が思いつくまま、何の脈絡もなく綴られるかのように見えるエッセイ。けれど、そこには、彼女だけの法則というか、まとまりがあって、最後まで読んではじめて、タイトルのもとに集まってきたことが分かる。<br />
だから、読む者は、先の読めない楽しさを味わいつつ、最後にはきちんと終わる安心感を持って読むことができるのだ。<br />
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本書では、向田邦子の少女時代や、彼女の家族のことが書かれている。中でも父親は、「向田邦子」という人物を作り上げるのに、欠かすことのできない大きな存在だ。それは、父親の描写が一番多く、生き生きとしていることからも、読み取ることができる。
不遇な幼少期を過ごしたために、家庭に多くを求める父。自分だけ特別でないと気が済まない父。家では家族に威張り散らし、外では精一杯虚勢を張っている父。
娘として、父にたくさんの弱点があることを認めつつも、眼差しはあたたかい。「しょうがないなあ」という声が聞こえてきそうだ。理不尽な父親に反感を覚えながらも、家族のために働いていることを分かっているから、彼女の描写はほのぼのとしているのだろう。

特に私が好きなのは、「父の詫び状」「お辞儀」「ねずみ花火」
題材はもちろん、関係のなさそうな話題が、タイトルでまとまっていく展開は、読んでいて心地よさを感じる。
向田邦子のエッセイを読んでいると、昭和初期の日本の情景が、自然と浮かんでくる。子どもたちの笑い声や、台所から聞こえてくる炊事の音や、漂ってくる食べものの匂いなどが、ページから飛び出して読者の五感に訴える。
いわば、一中流家庭の日常から、昭和の風景を見ることができるのだ。だから、どことなく懐かしく、しみじみとするのかもしれない。
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