『おいしい話 料理小説傑作選』

おいしい話―料理小説傑作選 (徳間文庫)「おいしい話」と大きく書かれたタイトルの誘惑に負けて、思わず購入。出版社側の思惑にまんまとはまってしまったようで悔しいが、食べものが出てくる物語が好きなのだから仕方がない。
本書には、12人の作家による料理短篇小説が収められている。
シチュー、ぶり大根、鮟鱇鍋、鶏肉の煮込み、ババロワ、中華粥、コンソメ、カキ氷、いのしし鍋、たこやきなど、前菜からデザートまで幅広い料理が登場する。

こういったアンソロジー本で注意しなければならないのは、集められた作品には編者の好みが色濃く出る、ということ。
私は、読むとお腹が空いてくるような、ほのぼのとした小説が好きなので、正直本書は期待はずれだった。さまざまなテイストの物語を取り揃えているとはいえ、かなり毒気の強いアンソロジーである。

阿刀田高「わたし食べる人」、辺見庸「コンソメ」、田中啓文「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」は、スタンリイ・エリンの『特別料理』を彷彿とさせ、ぞっとした。
一口に「食べる」といってもそこには色々な意味が含まれている。以前読んだ大平健・『食の精神病理』で、「食べるとは愛情を取り込む行為」という意味のことが書いてあってなるほど、と思ったのを思い出した。美食を追い求めるあまり、自分を見失わないようにしなければ。

小川洋子「料理教室」は、「消える」をテーマにしてきた彼女には珍しく、「消えていたものが出てくる」物語である。特に意味のある内容ではないが、料理教室の先生と生徒の「わたし」との対比がおもしろい。

小林信彦「ババロワばあさん」は、本書の中で一番バカバカしいユーモア小説。今、「ババロワ」と変換キーを押したら「婆ロワ」になって笑った。

不思議な読後感を残すのが、金井美恵子「家族アルバム」。それぞれ別の食材で食中毒死した祖父・父・母の思い出が、兄弟の口を借りて飄々と語られる。
本書のベストを選ぶとすれば、名作・清水義範「ぶり大根」もいいが、最後に納められた田辺聖子「たこやき多情」だろうか。これを読めば、熱々のたこやきが今すぐ食べたくなるはず。ラストに落ちがあって、関西人の「呼吸」を堪能できる作品である。
現在絶版になっていて手に入りにくいものと出会えるのも、本書の魅力だろう。[Amazon]

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