『都市伝説セピア』朱川湊人

都市伝説セピア (文春文庫)オール読物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」を含む、5つの物語が収録された短編集。
本書は、第130回直木賞の候補にもなっていて、第133回直木賞を受賞した『花まんま』を予感させる、朱川湊人の原点の一冊といえるだろう。というより、個人的には、『花まんま』より本書の方が完成度は高い、と思う。

朱川湊人は、ホラーとノスタルジーが融合したような作風を貫き続けている。ともすればマンネリになりそうなのに、一作ごとに違う趣で読ませるのは、すごい。
ある時は、背すじが寒くなるような恐怖を与え、ある時は、心にぽっと明かりが灯るような暖かさで読む者を包み込む。
怖さの中にも、人間の弱さや寂しさに向けられた作者の暖かい眼差しがある。私はホラーが苦手でその手の小説を避けていたが、朱川作品ならそんなホラー小説嫌いでも読むことができるので、嬉しい。

本書に収められた5作品は、「恐怖モノ」と「人情モノ」の二つに大別できる。
自ら都市伝説を作り殺人に手を染めていく男を描いた「フクロウ男」と、自殺した画学生に想いを寄せる二人の女性を描いた「死者恋」は、「恐怖モノ」の部類に入るだろう。
死んだ親友を助けるために一日過去へ戻る少年を描いた「昨日公園」と、心に後ろめたさのある人だけに見える人形を描いた「月の石」は、読後暖かい気持ちになれる「人情モノ」といえるだろう。
見世物小屋の親子と少年を描いた「アイスマン」は、「恐怖モノ」の色が濃いが、ラストの切なさでいえば「人情モノ」ともいえる。

本書の中では、「昨日公園」が一番良かった。何度昨日に戻っても、親友を助けられず、いっそう事態を大きくしてしまう無力さに打ちひしがれる姿が、切ない。少年の友情と、親子の愛情を絡めて描いて、物語に深みをもたせている。
この作品は、重松清の『流星ワゴン』と似ている。過去の事実は変えられないからこそ、貴重なのかもしれない。[Amazon]

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