『恋時雨』蘇部健一
たいして期待せずに読み始めたのだが、なかなかおもしろかった。
タイトルと表紙から少女漫画のようなロマンティックな物語を想像していたので、内容との落差にびっくり。
舞台となるのは、2005年と1955年(昭和30年)の東京・三鷹市。
それぞれの時代に、親の決めた許婚との結婚に悩むふたりの女性がいた。そこへ現れた、ひとりの冴えない青年。青年の正体は?これは運命の恋なのか?「過去は変えられない」というタイム・パラドックスのもと、男女の祖父母の恋愛も絡まり合って事態は複雑なものに。
本書は、時空を超えて恋人たちが巡り会うタイムトラベル・ストーリーである。と書くと、オードリー・ニッフェネガーの『タイムトラベラーズ・ワイフ』のような切ない恋愛小説を頭に浮かべてしまうが、この作品に悲壮感や残酷さといったものはない。
よく考えてみれば結構悲惨な状況に陥っているにも係わらず、登場人物たちは実にあっけらかんとしているのだ。人物の内面描写に物足りなさは感じるものの、ギャグ満載のテンポ良い物語は、単純に面白おかしく読むことができる。終始ドタバタする展開は人によって好みが分かれるかもしれないが、緻密に伏線が張り巡らされたミステリーには、正直感心した。
本書では、5枚の挿絵が効果的に配置されている。これは、文章だけでは表現できない世界だと思う。鍵となるのは、残された4枚の写真。数組の男女の物語が平行して語られるので混乱するが、勘のいい人なら早い段階で気づくのではないだろうか。
あまり評判になっていないようだが、質の高いエンターテイメント小説で、特に若い読者にオススメの一冊である。著者曰く「自信作です」の作品を、存分に堪能してみてはいかがだろう。[Amazon]



コメントはまだありません。