『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』ジョセフ・E・スティグリッツ

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

  • ジョセフ・E.スティグリッツ
  • 徳間書店
  • 1890円

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書評

センセーショナルなタイトルだが、原題の「MAKING GROBALIZATION WORK」より内容を的確に表現しているのだから、皮肉なものである。
科学・医療技術や交通などの発達によって、私たちは意識するとしないに係わらず、グローバリズムの恩恵に与っている。日本にいながらあらゆる国の食材を味わい、低価格で衣料品や日用品を買うことができる。
だが同時に、世界のグローバル化は、格差の拡大をもたらした。一握りの富める者だけが富を独占し、貧しい者は貧困の苦しみから抜け出すことができない。そんないびつな世界の現状に警鐘を鳴らし、人々が幸福になるグローバル化への道筋を指し示したのが、本書である。

注意しなければならないのは、著者の寄って立つ主義を踏まえて読まなければならない、ということ。
著者は、2001年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者。クリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めていた著者が展開する持論は、完全に民主党寄りである。「グローバリズムを正す」となっているが、その矛先は、アメリカ、ひいてはブッシュ共和党政権に向けられている。本書を読んで、「アメリカはなんてずるい国なんだ」といたずらに反感を持つのは間違っているだろう。保守主義には保守の正義があり、支持者の利益を図ろうとするのは当然の行動なのだから。

本書の話題は、経済のみならず、政治、外交、環境、医療と多岐にわたり、著者の博識さ・視野の広さに驚かされる。経済用語が出てこないから専門的な知識がなくてもいいという意味では読みやすいが、なにしろ話題が縦横無尽に展開されるので、ある程度の知識がないと理解するのに苦労する。私は、貿易については知らないことだらけで、著者が述べる当たり前の解決策すらできていない理不尽な現状に愕然とした。

著者は、失敗・成功例を通してグローバル化の問題点を指摘し、解決策を提示していく。「悪いのは、グローバリズム自体ではなくやり方で、市場のルールが公正でないこと」とする論理展開は単純明快で分かりやすく、読んでいて気持ちがいい。中国を経済的成長の成功例として紹介しているのは、都市部と農村の格差や環境汚染の問題を無視しており疑問だが、おおむね著者の意見は十分に納得できるものだ。
特に、エイズ治療薬やバイオパイラシーの問題を指摘して、知的財産権強化の流れに待ったをかける著者の主張には、大いに共感を覚えた。
また、外貨準備システムの多様化の意味が私はいまひとつ理解できなかったのだが、本書ではアメリカの「双子の赤字」や「世界紙幣」の発行を通して分かりやすく説明している。

昔に比べ世界がより身近になったとはいえ、普段の私たちは自分が住んでいるところ以外の地域を真剣に考えることは少ない。けれど、世界は密接に繋がっており、一国の行動は他の国々に影響を与える。本書は、今、世界で何が起こっていて、何が問題になっているのかということを知るために最適の一冊といえるだろう。

もっとも、批判するのはたやすい。どれだけ納得できる論理であろうとも、実行されなければ単なる理想論に過ぎない。
早くも世界は、アメリカ大統領選挙の話題で盛り上がっている。もし民主党が政権を取ることとなれば、著者が経済の舵取りを担う可能性は高い。その時に、本書で提唱されたアイデアがどれだけ実現され、世界を良い方向へ向かわせることができるのか。本書の本当の評価は、今後の行動で決まるのではないだろうか。[Amazon]

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

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