『リンさんの小さな子』フィリップ・クローデル
リンさんは、祖国の戦乱から逃れてきた老人だ。
腕には、生後6週間の孫娘をしっかりと抱いている。愛する故郷と家族を失った彼にとっては、孫のサン・ディウの存在だけが、生きる支えとなっている。
難民として暮らす異国の地で、リンさんはバルクと名乗る男と出会う。バルクもまた、妻を亡くし、過去に自分が犯した行為に人知れず苦しんでいた。
心に深い傷を抱えた二人の男が出会い、言葉が通じなくとも、心を通い合わせる。
読み始めてすぐに、手ごわい小説だと思った。
極限まで削ぎ落とされた無駄のない文章は、ごまかしがなく、ストレートに心に訴えかけてくる。
リンさんの祖国はベトナムで、辿り着いた地はフランスだろう、と推測できるのだが、作者は明確には示していない。むしろ、意図的に場所を伏し、「どこでもない場所」を創り上げようとしているフシがある。
思うに作者は、虚構の中に真実を描きたかったのではないだろうか。
世界では、いまだに紛争や戦乱が止まず、幾人もの「リンさん」や「サン・ディウ」が生まれている。戦争が彼らから奪ったものは土地や物だけではない。「希望」や「幸福」や「生きる気力」といった、プラスの感情まで根こそぎ持ち去ってしまうのだ。
喪失感に苛まれていたリンさんも、友情によって再び本来の心を取り戻していく。
人を傷つけるのが人なら、その傷ついた人を癒すのも、人でしかないのかもしれない。
サン・ディウとは、リンさんの祖国の言葉で「穏やかな朝」という意味だそうだ。
どんなに長く、深い闇であっても、明けない夜はない。この、「リンさんの小さな子、サン・ディウ」は、二人の男のみならず、あらゆる人々の「希望」の象徴なのだろう。[Amazon]
フランス:高橋啓・翻訳



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