『李世民』小前亮
時は7世紀初頭の中国。
隋朝は堕落し、群雄割拠する戦国時代に突入する。その中でさまざまな戦いを勝ち残った唐が最大勢力となり、大陸を支配していく。
筆者は本作がデビュー作とは信じられないほどの筆力で、読む者をあっという間に物語の世界に引き込んでゆく。土ぼこりの匂い、馬の蹄の音、大地の震えが、まるで今、そこに自分がいて体験しているかのように感じられる。
登場人物は多いのに、作品の構成が良く、章ごとに挿入された勢力地図の助けもあって、混乱せずに読み進められる。
また、人物描写がいい。妻に怒られてしゅんとなってしまう群雄の一人は、部下に「この愛すべき主君のためならどんな強大な敵とも戦える」と思わせる愛嬌を持っているし、ある者は、野心満々なところが人間くさくて憎めない。殺すには惜しい敵将をあの手この手で味方にしたり、裏切りがあったり・・・と、吉川英治の『三国志』を彷彿させる内容となっている。
ただ、不満は、主人公の李世民が完璧な人間すぎるところだ。敵が一目見て惚れ込むほどの魅力をもう少し掘り下げて描いてほしかった。淡々と書き進められており、退屈感は否めない。最後のほうで、兄との確執に悩むところでは主人公の姿が上手く表現されていたので、そういった強さと弱さ両面をバランスよく織り交ぜればもっと深い内容になっていたように思う。
また、本書は李世民が政権を継ぐまでの時期を描いた小説なので、「貞観の治」と呼ばれる治世を読みたい人には、少々不満が残るだろう。
筆者の力量はまだこんなものじゃないだろう、との思いを込めて評価は弱冠低めに設定した。
それにしても、次回作が期待できる作家が登場した。[Amazon]



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