『ティルックラル 古代タミルの箴言集』ティルヴァッルヴァル

ティルックラル―古代タミルの箴言集 (東洋文庫 (660))本書は、南インド・タミル地方で(諸説あるが)5~6世紀頃に書かれた箴言詩集の全訳である。日本では、古墳時代~飛鳥時代にあたる。
作者は、詩人のティルヴァッルヴァル。私の調べた限りでは、日本で読めるティルヴァッルヴァルの作品は、この一冊だけだと思う。

日本ではあまり知られていないが、タミル文学史上最も有名な作品で、詩の一節は小学校の教科書に載り、中高生の中にはかなりの詩節を暗誦する者もいるという。知識人は、折に触れ古代英知の言葉を引用して、政治や人生を語るのだ。
日本語にすることで、暗誦に適したリズム感ある韻律が損なわれてしまっているのは残念だが、それは翻訳の避けがたい宿命といえるだろう。だから、詩集というより、箴言集として読むほうが良いかもしれない。

本書は、1330の二行詩からなり、インド人の三大目標である、「法」「財」「愛」を主題にしている。「愛」については、万葉集などの日本の恋歌の方が、個人的には共感できた。
全体的に普遍的な真理を説いているが、中には現代の時代観にそぐわないものもある。また、作品から、不殺生や慈悲の心といった作者の思想は読み取れるものの、当時のインドの歴史や宗教、タミル文化を知らなければ理解しにくい箇所がいくつかある。

とはいっても、本書は決して堅苦しいものではない。1333に章立てられて構成された一冊の書は、時代・国境・文化を越えて、現代に生きる私たちに知恵と勇気を与えてくれる。
本書の読み方は、大きく分けて二つある。
一つは各章の表題に即して読む方法(特に、王への箴言として)。もう一つは、一般的な格言として(一般人に向けられた金言として)読む方法である。すなわち、本書は、帝王論と人生論との二重の読み込みができるのである。
例えば、私が本書の中で最も好きな「友情」という詩がある。
困った時に助けることこそが真の友情である、とするこの作品の「友」は、一般的な「友人」と「同盟国」の二つの意味が含まれているのだ。
二重構造的な意味を持つ詩。本書の魅力は、こういったところにもあるのかもしれない。[Amazon]

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