『ナターシャ』デイヴィッド・ベズモーズギス
本書は、カナダに移住したロシア系家族を描いた連作短篇集である。
7つの短篇は時系列にそって収められているので、自由を求めてラトヴィアを後にし、慣れない異国の地で苦労しながら暮らしていくユダヤ系の三人家族の様子が、よく分かるようになっている。
一人息子のマークは、最初の短篇「タプカ」では6歳だったのが、最後に収められた「ミニヤン」では青年へと成長を遂げている。
マークの目から見つめた、ユダヤ系家族のカナダでの暮らしぶり。
これといった山場もなく淡々と描かれ、終始同じ調子で展開していく物語に、最初はひどくつまらなく感じた。抑制の効いた簡潔な文体や、極端に無駄を排した文章は、うっかり読み過ごすと物語の真意を掴み損ねてしまう。
作者は、登場人物たちの心情―喜び、怒り、悲しみなど―を、分かりやすい直裁な言葉では書かない。会話の端々や、ちょっとした振る舞いに、その人間の性格や内面を見せるのである。
例えば、「マッサージ療法士ロマン・バーマン」では、マークの母が作ったリンゴのケーキが、困窮するロシア系ユダヤ人と裕福な東欧系ユダヤ人との対比を表現している。
ロシアに留まった者と出た者・両者の苦悩を描いた「世界で二番目に強い男」や、カナダでユダヤ人社会を形成する老人たちの孤独と友情を描いた「ミニヤン」は秀作だが、本書の中では表題作・「ナターシャ」が一番良かった。
ロシアから来たしたたかな年下のいとこに翻弄されるマークの性の芽生えと初恋をほろ苦く描いているこの作品で、マークの子ども時代は終わりを告げ、大人の世界へと足を踏み入れることになるのだ。
ノスタルジー漂うどの短篇も、静かな筆致でしみじみと読ませる。小説には、人間の営みや心情が詰まっていることを感じさせられる一冊。[Amazon]
カナダ(ロシア出身):小竹由美子・翻訳
Natasha and Other Stories
David Bezmozgis




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