『女にこそあれ次郎法師』梓澤要

女(おなご)にこそあれ次郎法師彦根三十五万石、徳川譜代筆頭として、幕末まで重き地位を占めた井伊家。
長きにわたる徳川政権を支えた井伊家は、決して、順風満帆なわけではなかった。井伊家が一度消滅したという事実を、本書を読んで初めて知った。

本書は、近江領主・井伊直盛の一人娘として生まれ、のちに徳川四天王の筆頭となる井伊直政の後見人・次郎法師直虎の生涯を描いたものである。
何事もなければ、領主の姫として婿養子を取り、幸せに一生を終えられたはず。
しかし運命はそれを許さず、彼女に尼になる決断を迫るのだ。
女であるけれども、井伊家惣領の証である「次郎」、出家者の証である「法師」を取って、「次郎法師」と名づけられたのが、本書タイトルの意味だ。

江戸時代でこそ、井伊家は大大名だが、群雄割拠する戦国時代では、小国の一つでしかない。
今川義元、織田信長、武田信玄、徳川家康―。強大な勢力たちが戦いを繰り広げる天下取りレースの中で、生き残るために犠牲も払う。
その苦しい立場が、全体を通して痛々しいほど伝わってくる。
今日の味方が明日には敵となり、味方が敵に滅ぼされる・・・。変化のスピードが速い時代背景が、物語の展開をめまぐるしく、面白いものにしている。
それにしても、本書で一体どれ程の人が死んだのだろう。

戦国時代は「人が人を殺す時代」なのだということを、痛感させられる。フィクションにも関わらず、否、フィクションだからこそ、一人の人間の死がリアルに感じられるのだ。
戦国時代は、男たちの戦いではない。戦場の外で女も戦っているのだ。
本書では、次郎法師はもちろん、彼女の母親や、直政の生母・ひよ、直政の異母姉・ふう、家康の正室・築山など、さまざまな女性の生き様が、細やかな筆致で丹念に描かれている。
男性に大人しく従っていただけではない、したたかで強靭な女性の姿が、なんだかまぶしく映る。[Amazon]

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