『おやすみ、こわい夢を見ないように』角田光代

おやすみ、こわい夢を見ないように少し前に、人気漫画・『DEATH NOTE』が映画化され話題になったのは、記憶に新しい。そのノートに名前を書かれた者は死ぬ、という死神のノートを巡る人間たちの戦いを描いた物語で、とてもおもしろい。
この漫画を読んだ時、ふと、自分には殺したいほどの人間がいるのか、考えてしまった。他人に対して腹の立つことや、憎しみに近いものを抱くことはある。けれど、「殺したい」かどうか、と突き詰めて考えると、その思いはそれほど強いものではないことに気づく。

人は、内に抱える憎悪を、一体どのように処理しているのだろうか。カッとなって他人を傷つけてしまう者と、一歩踏みとどまって我慢する者の境界線は何なのか。さまざまなパターンを創作することで、その問いに答えを見出そうとしたのが、本書である。
『空中庭園』では、「秘密を作らない」がモットーの開放的な家族が、実は崩壊しているという皮肉な物語が描かれていた。家族一人一人の心の闇が暴かれ、ぞっとする話だったが、本書はその心の闇を、更に突き詰めていったものといえる。

本書には、7短篇が収められており、憎しみを持て余し、それを発散させることも、なくすこともできない人たちの心の内が描かれる。

今いる場所を好きになれず、かといって、あらたな足場を捜すこともできない。許したくて、受け入れたくて、先へ進みたくて、それがかなわないのなら、拒絶したくて、無視したくて、断ち切って終わりにしたい、しかしそのどれもできない。(P.44)

との言葉は、憎悪を抱えながら生きていかなければならない、孤独な彼らの苦しみを、的確に表現しているのではないだろうか。

人を殺してしまう者と踏みとどまる者の違いについて、作者が登場人物の口を借りて、言及している箇所が、印象的だ。

昨日大宮の駅で会社員を殴った高校生は、きっとそんことで人が重態になるなんて思わなかったんだろうと突然沙織は思う。むかついた、くらいの気持ちだったんだろう。あるいはなんにも思わなかったか。自分のように、あるいは剛太のように、相手に向けて増大する悪意を自分のなかで転がしたりはしないんだろう。そういう人が殺せるんだろう。(P.107)

この作品で、角田光代は確実にステップ・アップを果たしている。本書はいわゆる感動を誘う物語ではない。けれど、読む者の心に、ダイレクトに響く力のある作品である。[Amazon]

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