『世界でたったひとりの子』アレックス・シアラー

世界でたったひとりの子「アンチエイジング」なる言葉が、日常的に人々の間で使われるようになって久しい。
テレビをつけると、“若く・美しく”なるための化粧品やサプリメントのCMが流れ、街にはその手の商品やサービスが溢れている。
これら一連の現象に、人々の老いに対する異常なまでの恐怖が透けて見えてならない。この状況が行き着くところまでいってしまった世界が、本書である。

高齢化社会を迎えた世界で、医療が進歩し、「老化防止薬」が開発される。その薬を飲んだ人は、致命的な事故か、変わった病気、本来の寿命をはるかに超えて活動し続けた肉体の最終的な衰弱でない限り、死なない身体を手に入れることに。平均寿命は120数年という長さ。ところが、「長寿」の代償として、ごく少数の人を除いて「不妊」になってしまう。この社会では、子どもが貴重な存在となり、違法ながらもお金持ちにレンタルされる。本書は、数少なくなってしまった子どもの一人、タリンの「自分探し」、「愛情探し」の物語だ。

読んでいてぞっとした。
まるで物かペットのように、コリンは単なる商品として扱われる。そのままの自分を受け入れてほしい、という悲痛なまでの叫びがページから聞こえてきそうだ。
歳を重ねるに従い、しわが増え身体の機能が衰えるのは自然の摂理である。その流れを歪め、自分たちの都合の良いように操作してしまったらどうなるのか。一つの結末がここに提示されているように思う。ただの作りごとと言い切れないリアルさがある。
「老い」から目を背け、忌み嫌うことは、その先にある「死」、ひいては生命自体を軽視することにつながるのではないだろうか。物語はそんな社会だから、子どもの人権も無視されているのだろう。

本書の中で、若い夫婦が連れた赤ん坊を見ようと人だかりができたシーンが一番印象的だった。

タリンは興奮していた。自分でも少し恥ずかしくなるほどで、ぐいぐい輪の中心まで進んでいった。道路の死体をよく見ようと。血だらけで、骨が折れて不自然なポーズで横たわっている死体を。死以外のなにものも見ていないうつろな目を。ところが、じっさいそれとはまったく反対だった。人々をひきつけていたのは死ではなかった。誕生だった。命だった。

テーマが明確で、ポリシーがぶれないのはいいのだが、先が読めてしまうのがシアラーの欠点だと思う。希望的ラストは、時に物足りなく感じてしまう。
これがロバート・コーミアだったら、結末は違ったものになっていたかもしれない。[Amazon]

アメリカ:金原瑞人・翻訳

The Hunted
Alex Shearer
The Hunted

  1. コメントはまだありません。

  1. トラックバックはまだありません。