『空中スキップ』ジュディ・バドニッツ

空中スキップ

  • ジュディ・バドニッツ
  • マガジンハウス
  • 1995円

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書評

23の作品が収められている。
作者は、アメリカ生まれのジュディ・バドニッツ。大学創作科在学中に、処女短篇集となる本書を発表し、高い評価を得たという。26歳の若さでこの完成度。私はプロの物書きではないが、彼女の才能には嫉妬してしまう。
久しぶりに小説家らしい人物に出会えたな、というのが最初の作品・「犬の日」を読んだ印象だった。正確な定義は知らないが、私の中で「作家」と「小説家」は違うものだ。「作家」は広義の物書きで、「小説家」は、日常を非日常に変えてしまうような世界を創り出す人のこと、と勝手に解釈している。
この「小説家」の中には、日常の何気ない瞬間を切り取る者や、「物語」を作る者などさまざまいるが、バドニッツの場合は、後者。といっても一つ一つの作品が物語として完結しているかというとそうではなく、完成するギリギリのところで踏み止まっているように感じられる。作品としては一応終わるものの、物語はまだ続いているという感覚なのだ(もっとも、しっかりオチのついた作品もあるが)。

最初読んだ時は、作者の豊かな想像力とブラックユーモア冴えわたる感性に魅了された。私は本書のような毒気のある作品は大好きである。やはり、本書の最大の魅力は、独特の世界観、とどまるところを知らない作者の想像力・空想力にあると思う。現実を軽々と飛び越え、読者に次々と不思議な世界を見せてくれる。
しかし、それも確かな文章力があればこそ。私は、アイデアを思いつく妄想力よりむしろ、物語の核をふくらませ、読者を引き込んでいく作者の筆力に唸らされた。想像の翼を広げ大胆に描いているように見えるが、文章に無駄がなく緻密に積み上げられていることが分かる。

訳者あとがきの、「この本を読むということは、たとえばラジオのつまみを回して飛び込んでくるいろいろな周波数の電波に耳を傾けるような(中略)体験に似ている」との指摘は、言いえて妙である。私は短篇集を一気に読むとひとつ前の作品を引きずってしまうのだが、本書ではテイストの違う作品が繰り出されるにもかかわらず、ラジオのチューニングを合わせるようにパッパッと容易に切り替えられた。
それは、書き出しとラストの巧さからきているのだと思う。冒頭の一文で読者を一気に空想の世界へ飛翔させ、ラストで鮮やかに着地させる。この手際が見事なのだ。

特にうまいなぁと感じたのが、「百ポンドの赤ん坊」という作品。「みんな黙っているけれど、家の中に百ポンドの赤ん坊がいる。」から始まるこの作品は、両親の不和や少年の鬱屈した思いを、「百ポンドの赤ん坊」という表現を通して描いている。
これと似たような手法を取っているのが、「パーマネント」。状況や登場人物の感情を直接的に書かず、読み手側に「ああ、そういうことか」と推量させるのだ。最後の一文まで気を抜けず楽しめた。

作品集としては、星新一のショート・ショートを彷彿とさせるものや、近未来もの、幻想的なもの、ニヤリとするコミカルなものなどバラエティに富み、その上完成度が高いので、お得な一冊である。
訳もいい。岸本佐和子さんの翻訳を読むのは(多分)本書が初めてなのだが、とても読みやすかった。海外作品に入り込めるかどうかは、翻訳に負う部分が大きいと思う。

ただ、ひとつ気になるところが・・・。
「バカンス」という作品の中で、恋人とギクシャクしていた女性が、二人で朝日を見て気持ちを一変する場面がある。
一番の読みどころといえるのだが、そこで太陽が昇っていく様子を「原爆のキノコ雲のように」と表現している作者のセンスには首を傾げざるを得ない。気持ちが好転するのだから、この比喩は考えられないだろう。アメリカ人の感覚というのはこんなものなのだろうか。それとも、作者なりのユーモアか。けれどブラックユーモアも度が過ぎればただの嫌味である。[Amazon]

アメリカ:岸本佐和子・翻訳

Flying Leap
Judy Budnitz
Flying Leap

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

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