『落葉』G・ガルシア=マルケス
- ガブリエル・ガルシア=マルケス
- 新潮社
- 2520円
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書評
高校生の頃、死ぬのが怖くてたまらなかった。
身近にいる人が亡くなった訳でも、逼迫した状況にあった訳でもない。将来のことをぼんやり考えていると、急に“死”が現実的なものとして迫ってきたのだ。目の前にはいくつかの選択肢があり、この先どんな人生を歩んでいくのかは不確かなものだったが、ただひとつ、「自分が死ぬ」ということだけは100%確実な未来だった。もしかしたら5分後には心臓が止まってしまうかもしれない。自分のすぐ側にある“死”の存在に気づいた時、ぞっとした。勉強、人間関係、クラブなど、他に悩むことはたくさんあったのに、最も私の心を占めていたのはこのことだった。
多分、「死ぬこと」そのものよりも、その先に何があるか分からないことが恐怖だったのだと思う。テレビの電源を切るようにプツンと消えてしまうのか、違う世界が広がっているのか。“死”がいつやって来てもおかしくないのに、家族や友だちが平然としていられるのが不思議だった。この時ほど、孤独を感じたことはない。
この頃本書に出会っていたら、私の心はいくらか軽くなっていたと思う。
13の長短篇が収められたガルシア=マルケス初期の作品集である本書には、“生”と“死”が色濃く現れている。そこに広がっているのは、底知れぬ“孤独”である。
例えば、「死の向こう側」という作品がある。
双子の弟を亡くした男性が、自分とそっくりの顔の死体を前にして“生”と“死”の違いは何なのか、考え始める。死への恐怖心が生まれ、それが徐々に膨れ上がって最高潮に達し収束していく主人公の心の内が、息の詰まるような緊張感をもって語られる。
本書はガルシア=マルケスの死生観を探ることのできる一冊といえるのだが、作者は「生と死」についてまだ手探り状態にあったのではないか、と思う。
作者の描く“生”と“死”に大きな隔たりはない。だが、この二つを分けるのは何か、というところになると、とたんに筆が曖昧になる。
本書には、「におい」や「手触り」といったものが頻繁に出てくる。ホルムアルデヒドの匂い、塗り立てのペンキの臭い、トランクやごみ屑の臭い・・・。作者は実際に五感で感じられるものを通して“死”を捉え表現しようと試みる。もしかすると、そこに限界があるのかもしれない。
本書が、『百年の孤独』や『わが悲しき娼婦たちの思い出』と同じ作者とは意外である。あの、こちら側に侵食してくるような圧倒的な力強さがなく、どちらかというと淡白な印象を受けた。
扱うテーマこそ一貫しているが、カフカやヘミングウェイなどの作家に影響を受けた小説作法によって書かれた作品は、どこかよそよそしい。良く言えばさまざまなテイストの作品を楽しめる作品集だが、悪く言えばガルシア=マルケスでなくとも読める。私は作者の強烈な個性を味わえる作品の方が好きなので、本書は少し物足りなく感じた。
表題作「落葉」は、のちの『百年の孤独』へと結実する処女長編。
一人の男の死を、大佐とその娘と孫の少年の三世代の視点で語ることによって、マコンドという町の興亡も同時に浮かび上がらせる。死んだ男の孤独と町の荒廃が哀しく伝わってきて読み応えがあるのだが、この三人による独白形式にする必要があったのだろうか。特に、少年の部分が弱い。
個人的には、「青い犬の目」が良かったが、全体的な完成度としては、それほど高いと思えない。とはいえ、本書はガルシア=マルケスの軌跡を知る上で、欠かすことのできない記念碑的作品集といえるだろう。[Amazon]
コロンビア:高見英一 他・翻訳
※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

落葉 他12篇

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