『ウラナリと春休みのしっぽ』板橋雅弘
3巻目となる本書は、前2作と雰囲気がガラリと変わっている。
これまでの2作はハヤブサが語り手だったのが、今回は章ごとに一人称が入れ替わるスタイルを取っている。代わりにクローズアップされるのが、サクラ。長野でのサクラの様子や、ハヤブサを通して間接的に見ていたサクラの胸の内がよく分かる作品となっている。サクラが本当はどんな子なのか知りたかった読者には、嬉しい一冊だ。
本書は、中学を卒業し高校進学のために上京してきたサクラの身に起こる、ある事件を描いた物語である。
時期は、中学と高校の間の春休みという短い期間。このシリーズは、とにかくスローテンポなのだ。第1作目は中3の夏休み、2作目は同じ年の秋から冬にかけてと、ワンシーズンことに描かれている。普通、こんなにスローな展開だとつまらないのだが、退屈さを感じさせず一気に読ませるのは、さすがである。
本書が前2作と異なるのは、語り手だけではない。構成や文体にある仕掛けがほどこされていて、これまでになくミステリー要素が強い。私は作者の仕掛けた罠にまんまとはまってしまった。ここまで上手く騙されてしまうと、悔しいというより爽快である。
いつもの爽やかなウラナリシリーズを想像している人は、物語の3分の2までは面白くないかもしれない。特に、ハヤブサが好きな人は。もしそうだとしても、少しの間我慢して読み続けてほしい。最後まで読めば、きっと楽しめるはずだ。テイストは違っても、本書も間違いなく、「ウラナリ」なのだ。
「高校デビュー」なる言葉があるように、人は場所を変えてスタートを切る時、新しい自分に生まれ変わりたいと思うことがある。これまでの自分に不満があるほど強く。けれど、過去の積み重ねで今の自分があるのだから、人生を完全にリセットすることなどできない。
本書で描かれるサクラは、東京で再出発しようと意気込むあまり、周りが見えなくなってしまう。これほど余裕がなく弱々しいサクラは、シリーズ始まって以来ではないだろうか。
この作品では、ハヤブサとサクラが一緒に過ごす時間は少ない。しかし、場所が変わり登場人物が増えたとしても、ウラナリシリーズはやはりこの二人の物語なのだ。
この関係を単に「恋愛」と言うのは、安っぽくて抵抗がある。友情とも恋愛とも違う、名づけることのできない関係があってもいいのではないか。そんな風に思う。[Amazon]



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