『プークが丘の妖精パック』ラドヤード・キプリング
妖精・パックとくれば、シェイクスピア作品が好きな人間としては、即座に反応してしまう。
『夏の夜の夢』に登場する“いたずら好きの妖精”のイメージが強いが、タイトルになっているとはいえ、本書ではその存在感は控えめである。司会者のように物語の進行役を務めている、といえようか。
舞台は、イギリス・ペベンシーの牧草地。
ダンとその妹・ユーナの兄弟が草に覆われた野外劇場で『夏の夜の夢』を演じていると、突然、妖精・パックが現れる。パックは魔法で歴史上の人物を次々と呼び出して、子どもたちに当時の物語を語って聴かせる。
蛮族の侵略を防いだローマの百人隊長の物語、二つの民族の間で友情を育んだ騎士たちの物語、海賊相手に商売していた村人たちにいっぱい食わせる建築家の物語など、古きイギリスの歴史が、生き生きと二人の目の前に広がり始める。まるで、その情景が浮かんでくるような、とても楽しい物語である。
最初の物語に登場する伝説の剣が宝をもたらし、その宝が最後に法律を生んだ、とする構成も巧い。
本書は、キプリングが子どものために書いた作品で、イギリスでは児童書として分類されている。こんな楽しい歴史物語を読めるイギリスの子どもたちは、なんて羨ましいのだろう。きっと、次々と語られる物語に心躍らせてページを捲ったに違いない。イギリス児童文学の質の高さを再確認させられる一冊である。
この作品は、本国イギリスでは『ジャングル・ブック』と同等以上に有名で、高い評価を受けているという。本当になぜ日本では今まで未訳だったのか、不思議なくらいだ。
だが解説によると、キプリングは愛国心溢れる作風ゆえに、帝国主義思想と批判を受けた時期があった。私の好きなインドの詩聖・タゴールまでも「東洋蔑視」と批判していたことには驚いた。
他の作品は未読だが、少なくとも本書からはキプリングの人間への愛情が伝わってくる。おそらく真の愛国論者とは、自分の国を愛するように、他の国の人々も愛することのできる人のことをいうのだろう。
ただ欲を言えば、できればこの作品を子どもの時か(無理だけど)、ヨーロッパの歴史に詳しくなってからのどちらかに読みたかった。その方がもっと楽しめたのでは、と思う。ところどころヨーロッパ史を知っている今の自分の立ち位置がどうも中途半端で、もどかしく感じた。[Amazon]
イギリス:金原瑞人・三辺律子・翻訳
Puck of Pook’s Hill
Rudyard Kipling Arthur Rackham




はじめまして。
私ももどかしさを感じました。
でも、しばらくして、これは、
イギリス歴史への誘い、だと思うようにして、
ちょっと、気分を楽にしました。
また、読んだ時の心地よさが残っています。
先ほどは当ブログにカキコミありがとうございました。
そうなんですよ、下手にシェイクスピアとか読んで英国の歴史を生半可に知ってる分なんだか自分の中でつながりが悪くなってしまう感覚はありましたね。
>真の愛国論者とは、自分の国を愛するように、他の国の人々も愛することのできる人のことをいうのだろう
この文章はいいですね。
最近は狭隘な了見の愛国者がネット上にも永田町にもうじゃうじゃいるので、
こういう文章を見ると嬉しくなってしまいました。
光文社古典新訳文庫は、「この作品を紹介したい!」という訳者の熱意が伝わってくる、良いシリーズですよね。
本当に、心地よい読後感でした。
世界は繋がっているのだから、一国・一民族だけの平和というのはあり得ないと思います。
本当に自分の国や、そこに暮らす人々を愛しているなら、周囲も幸せになることを望むのではないでしょうか。
その意味で、キプリングの愛国心は決して偏狭なものではないと感じました。
異なる民族の二人が友情を深めていく物語は、とても心あたたまりました。