『グーグル・アマゾン化する社会』森健

グーグル・アマゾン化する社会 (光文社新書)現在、ウェブについて語る時よく使われる、「ロングテール」という言葉。
売り上げ数を縦軸、売り上げ順位を横軸にして描いたグラフを恐竜に見立て、売り上げ上位の部分をヘッド(頭)、長く伸び続ける売り上げ下位の部分をロングテール(尻尾)と呼ぶ。リアル店舗では見向きもされなかった商品が、ウェブでは厖大な品数によって広く利益を集めることができる、と喧伝されている。
しかし、ロングテール現象は、本当にいいことなのか。現実に利益を享受しているのは、ごく一部の人間(企業)だけではないのか。

商品の多様化で利益を得るロングテールは、その裏返しとして、ヘッドという一極集中を招くのではないか(P.5)

という疑問を、とことん突き詰めたのが、本書である。

本書は7章からなる。
第1章は、現代ウェブ世界を俯瞰する導入部。第2章で「ユーザー参加型」「厖大なデータベース」という特徴でWeb2.0現象を捉え、第3、4章でその代表的企業であるグーグル、アマゾンの成功の秘訣を探っている。第5章で一極集中化をサイエンスの視点から読み解き、第6章ではユーザーサイドで起きている一極集中現象を明らかにする。そして終章でウェブ上での一極集中化が社会にどのような影響をもたらすかを考察している。
最初の方は、『ウェブ進化論』『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する』に書かれている内容とほぼ同じなので、退屈だった。が、読み進めるにつれて、これら2冊と異なる著者の視点に、どんどん引き込まれていった。特に最後の2章は、読み応えがある。

本書はウェブについて語っているが、眼目は、それによってどのような社会になっていくか、ということにある。ブログの便宜上、「Web関係」に分類したが、本当は「社会(問題)」という方が正しいのかもしれない。
本来インターネットは、その存在自体が分散的で、開放的なネットワーク空間で、それぞれのサイトはフラットに存在する。
だが実際は、人々の集まるサイトは固定化され、自分好みの情報や意見、人間だけを取り入れるようになっている。情報の多様化が一極集中を生む、というのはなんとも皮肉なものだ。
確かに、パーソナライゼーションによって欲しい情報を素早く手に入れ、自分と興味の対象が同じ人と出会えるのは、良いことだ。だが、SNSなどのサービスが活況な今、「見知らぬものとの出会い―偶然性による情報や人の発見が、大幅に減る(P.210)」との指摘も忘れてはならないと思う。

本書で書かれている、ある集団で意見が極端な方向へ傾く「集団分極化」という現象には、薄ら寒いものを感じた。自分の意見が少数派だと認識した人は孤立を恐れて沈黙し、優勢意見はますます勢力を増すのだという。
これは何もウェブに限ることではない。が、どこでも、誰にでも開かれた存在であるネットの力を考えると、現実の私たちの思考や行動に及ぼす影響は極めて大きい。
毎日新聞に「石田衣良の白黒つけます!!」という連載コラムがある。これは、ある2択の質問を投げかけ、読者による投票結果でその問題の決着をつける、というもの。
以前このコラムを巡り、石田氏がネット上で大バッシングを受けていたことがあった。「中国、韓国と仲良くした方がいい?しなくてもいい?」というテーマに対し、「しなくていい」が多数を占める結果となったにも関わらず、

今回のこたえは数字のうえでは「しなくていい」派が圧倒的だったけれど、応募しなかった多数のサイレントマジョリティを考慮にいれて決定させてもらいます。中国・韓国とは仲良くしたほうがいい。

と、彼が結論付けたことがその理由だ。
それでは意見を寄せた多くの人々の意見を無視し、多数決で決めるこの企画自体が無意味なものになる、という批判はもっともである。しかし私は、この判断をした石田氏は勇気があると思った。反発が起こるのは、当然予想できたはずだ。それでも(Webでも公開されている)新聞が社会に及ぼす影響力を考えると黙っていることはできなかったのだろう。

ウェブの発達によって人々はたくさんの情報を得、気軽に自分の意見を述べることができるようになった。利便性を考えると、今後、情報の一極集中化はさらに進むのだろう。本書の結語にあるように、この変化の中、どのようにして多様な意見を汲み取り、大勢に迎合することなく個々人が主体性を貫ける社会を築いていくのか。
本書は、一極集中の波にただ飲み込まれるのではなく、少し立ち止まって考える機会を与えてくれる好著である。[Amazon]

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