『ウルフィーからの手紙』パティ・シャーロック
舞台は、1969年のアメリカ。
十三歳の少年・マークは、ベトナムへ従軍した兄への嫉妬と対抗心、国に対する忠誠心から、愛犬・ウルフィーを軍用犬として差し出すことを決意する。はじめは誇らしい気持ちでいっぱいだったマークだが、伝えられる戦況や、周りの人々の意見を聞くにつれて不安になっていく。
本書は、主人公がさまざまな価値観に触れる中で、悩みながら自分の頭で考え、成長していく姿を描いた物語である。
同じく軍用犬を描いたもので、『犬の消えた日』(井上こみち・著)という優れた児童文学が日本にもある。描かれている時代と国こそ異なれ、飼っていた犬が戦争の犠牲になる、という点では同じである。ただこの二つの作品が決定的に違うのは、主人公の置かれた地が実際に戦況にあるか否か、ということ。
マークは、空爆で怯えることも、ひもじい思いをすることもない。アメリカの中流家庭で育つ彼は、何不自由することなく暮らしていた。学校の成績や、気になる女の子の態度に一喜一憂する、一般的な少年といえるだろう。
そんな彼が、兄とウルフィーが戦地に赴くようになって初めて、「遠い異国の出来事」であった戦争を、「自分の痛み」として感じるようになっていく。その心の変化が丁寧に綴られているのが、この作品の素晴らしいところである。
本書は、終始(戦禍にない)アメリカから舞台を移すことなく、手紙と新聞やテレビだけでベトナム戦争の様子を描く。作者がジャーナリストだからだろうか、敢えて一歩引いているようにも思える。にもかかわらず、戦争の悲惨さや家族の苦しみは、切々と伝わってくるのだ。
作者は、物語を通して声高に「戦争反対」と訴える訳ではない。
国のために尽くすのは当然の義務と考える元陸軍の父親、息子の幸せを願う母親、民主主義システムの重要性を信じる歴史教師、徴兵忌避者の兄を持つガールフレンド、戦争反対を掲げる大学生たちなど、さまざまな人間を描くだけだ。だが、読み進めていくうちに、多様な価値観が混在するこの姿こそが、民主主義のあり様なのだと分かってくる。異なる意見を通して徐々に自分の考えを作り上げていくマークの姿から、戦争という暴力とは対極にある、人間の英知を見るような思いがした。
この物語は、決して過去の出来事ではない。今でも、ウルフィーやマークが世界には存在する。戦地にいるウルフィーからマークに届いた手紙、そして、最後にマークからウルフィーに宛てた手紙は、私たちに託された手紙でもあるのだ。[Amazon]
アメリカ:滝沢岩雄・翻訳
Letters from Wolfie
Patti Sherlock




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