『頭のうちどころが悪かった熊の話』安東みきえ

頭のうちどころが悪かった熊の話タイトルに引かれて手に取った。熊が「頭を打った」のではなく、「うちどころの悪い」とは、一体どういうことなのか。
早速、ページをめくると、頭を押さえた熊のイラストが目に飛び込んでくる。どうやらこの熊は、頭をどこかでぶつけて記憶喪失になってしまったらしい。たったひとつ覚えているのは、自分が“レディベア”を探している、ということだけ。しかし、その“レディベア”が誰だったのかは、分からない。“レディベア”探しの旅に出た熊を待っていたものとは・・・。
するすると読みやすい物語である。しかも最後にはしっかりオチがついていて、にやりとさせられた。

本書には表題作を含め、7つの動物寓話が収められている。
児童書として分類されているが、むしろ大人が読む方が楽しめる一冊だと思う。私が子どもの時読んだとしても、ストーリーを追うだけの読書で終わってしまっただろう。
ほどよく力の抜けた挿絵なので、一見ほんわかした童話に思えるが、中身は決して楽しいだけのものではない。本書には、シニカルな視点が息づいている。作者は動物たちの姿を借りて、わたしたち人間の振る舞いや思考を、やんわりと皮肉っているのだ。
現実を見据えず過去や未来に逃げる者、他人の芝生が青く見えてしまう者、なんにでも意味を求めてしまう者など、現実社会には熊や、ヘビ、カラス、牡鹿たちの、なんと多いことか。もちろん、私自身も例外ではなく、読んでいて何度もドキッとさせられた。

人は、自分自身のことはよく見えないもの。この作品集はさながら鏡となって、その姿を映し出してくれるのだ。本人は真剣でも、傍から見れば滑稽に見える。
本書は、読む人の立場・年齢・気分等によって、さまざまな感じ方があるだろう。けれど、誰でもこの中のどれか一つは、きっと心に響くはず。
個人的には、前半に収められた、表題作と、「いただきます」「ヘビの恩返し」の3つがよかった。どの作品も十数ページと短いが、中身のぎゅっと詰まった物語で、シンプルなのに読み応えがある。作者が言葉のひとつひとつを大事に扱っているからこそ、キレのある作品に仕上がっているのだと思う。

本書は、自分の生き方を振り返り、周囲を見渡すきっかけを作ってくれる一冊である。長い人生、ほんの30分ほど立ち止まってみるのも、悪くない。[Amazon]

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