『床下仙人』原宏一
こう毎日暑い日が続くと、読書するだけでも疲れる。そこで、何か手軽に読めるものを、と思って読み始めたのが、この一冊。
本書には、5つの短編が収められている。どの作品も、日本のサラリーマンの悲哀をおもしろおかしく描き出している。
例えば、表題作の「床下仙人」は、結婚4年目にして子どもを授かり、それを機に都心の賃貸マンションから郊外の新興住宅団地の一戸建てに移り住むことにした男性が主人公。不況の中、仕事はきつくなる一方で、平日は連日の午前様。自宅はちょっと横になるために立ち寄っている感覚。土日出勤・接待ゴルフは当たり前。電車を乗り継ぎ片道1時間50分もかけて通勤する毎日・・・等々。
この主人公の日常を見ていると、なんだか泣けてくる。海外の人からは、「クレイジー!」と到底理解されないような、日本のサラリーマンの姿が浮かび上がってくる。
この現状を改めて考えてみると、異常である。だが作者は、重い筆致で深刻に描くのではなく、独特の視点で切り取り、ユーモアに包んで笑い飛ばしてしまうのだ。というより、そのまま描くと、あまりにも悲惨に映ってしまうからだろうか。
ともあれ、現代の日本社会に対する痛烈な風刺を踏まえつつも、本書は単純に発想やストーリー展開のおもしろさを味わう一冊といえる。
家の中に棲みついていた変な男の正体を暴いていく「床下仙人」や、地方支社から赴任してきた中年社員の謎に迫る「てんぷら社員」の二つは、ミステリーとして楽しめる作品だ。
本書の中でピカイチなのが、「派遣社長」。社員と同じく社長もアウトソーシングする時代。今のところ、これは小説の中だけの話だが、将来はどうなるのだろう。平均的な人間ばかり量産される社会は、確かにつまらないだろうな、と思う。
この短篇集の良いところは、ただシニカルな笑いに終わるのではなく、心あたたまるラストをしっかり用意していること。滑稽と思える程もみくちゃにされながらも、自分の道を見つけて歩み出す主人公の姿に、「人生、捨てちゃものじゃないな」という読後感が心を満たしてくれる。
もっとも、単行本は平成11年に刊行されている本書は、時代背景に古くささを感じることは否めない。また、「戦争管理組合」「シューシャイン・ギャング」の2篇は、言いたいことは分かるが、小説としてはいまいちおもしろくなかった。[Amazon]



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