『イレギュラー』三羽省吾

イレギュラー夏といえば、花火、海水浴、かき氷。そして、甲子園。
じりじりと肌を焼きつけるような炎天下、グランドにいるだけで凄いと思う。日焼けとは無縁の、バレーボールで汗を流していた私からすれば、アルプススタンドにいる人たちの忍耐力にも、頭が下がる。
野球には、選手だけでなく、観ている人も夢中にさせる何かがあるのだろうか。スポーツに打ち込む青少年を描いた作品には爽やかで熱い物語が多いが、その中でもとりわけ熱い「野球」小説を読むにつけ、そんなことを思う。

本書は、野球に魅せられた人たちの物語である。
「人たち」と曖昧な表現を使ったのは、本書が単に甲子園を目指す高校球児だけを描いている訳ではないからだ。
村が水害に遭い、避難所生活を強いられる蜷(にな)高野球部のメンバーたち、そんな彼らにグランドを提供し、一緒に練習することになる名門野球部・K高の選手と監督、蜷高野球部の甲子園出場を応援する蜷谷村の大人たち。
この作品は、立場や年齢の異なる人々が、「野球」でつながり、「野球」に熱くなる物語なのだ。

なんといっても、登場するキャラクターが魅力的。
素質だけは全国レベル、態度ならメジャーレベルのピッチャー・コーキとキャッチャー・モウ率いる蜷高野球部員は、ユニフォームを着ていなければチンピラと変わらない。もっとも、心は人一倍ピュアな男たちなのだが。
また、「キオォン!」、「ギャン!」「がぁああッ!」といった擬音語を多用した、臨場感と躍動感のある描写は、テンポ良く読める。
さらに、作者のユーモア精神が存分に発揮されているので、物語にどんどん引き込まれていく。K高のエースが苦心してあみだした魔球が「うんこボール」と命名されたのには笑った。

本書は、友情いっぱい、恋愛少々、爆笑必至、涙ホロリの青春物語である。青春は何も若者の特権ではない。年齢を問わず、何かに熱中している時はみな、青春を謳歌しているといえる。野球に興味のない人でも、十分楽しめる一冊。[Amazon]

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