『真景累ヶ淵』三遊亭円朝

真景累ケ淵 (岩波文庫)猛暑である。
もはや、冷房なしではいられない体になってしまった。テレビから連日のように流される各地の映像は、暑さを助長させるだけにしか思えない。「“暑い”って言うから余計暑くなるんだ!」と画面に向かって毒づきたくなる。どうやらこの暑さで、気持ちにも余裕がなくなってしまったようだ。

そこで、背筋の凍るような怪談話で暑さを吹き飛ばそう、と本書を読み始めたのだが、思っていたほど怖くない。というより、語り口の軽妙さ、登場人物たちの掛け合いのテンポよさは、まるで落語のよう。
話のところどころに作者のユーモアが顔をのぞかせ、とてもおもしろい作品なのだ。そもそも、「神経」をもじって「真景」としたタイトルからして、遊び心を感じるではないか。

物語は、ある殺人事件から端を発する因縁話。
複雑に絡み合ったいくつものエピソードは、元をたどれば最初の悲劇に落ち着く。大雑把にいうと、「因縁・因果」で括られてしまう話ではあるが、この作品の魅力は、あらすじで書くことのできない、ひとつひとつのエピソードにあるといっても過言ではない。
親の敵と知らず、恋に落ちる園・新五郎、豊志賀・新吉の二組の男女を中心に、たくさんの人間の、愛憎入り混じる人間模様が繰り広げられる。不可思議な現象も起こるが、ここで描かれるのは、紛れもなく、“生きた”人間たちの姿である。

死んだ後も愛する男を手放そうとしない女、夫に裏切られて失意のまま亡くなる女、ワルなのにどこか憎めない男、自由奔放に生きる女、己の欲のためにずるがしこく立ち回る男、夫の敵討ちに命を賭ける女、親兄弟を次々と失う少年・・・等。
登場人物たちは、己の宿命に翻弄され、非業の最期を遂げていく。人間の業の深さに心底、ぞっとさせられた。私はこれまで怪談を、幽霊が現れて震えあがるホラーと思っていたが、むしろ本当に怖いのは、今いる現実の世界であり、生きている人間なのではないか。
殺人、虐待、偽装など、他人を軽んずる暗いニュースを見聞きするにつけ、この作品のテーマである「因果応報」の思想を徹底すれば、この世はもっと住みよいものになるのになぁ、と感じてしまう。

映画化されて、いま最も“ホット”な怪談話。
本書の真の怖さに気づくのは、読んだ直後ではなく、普段の生活や身近な人たちとの関わり合いの中でなのかもしれない。[Amazon]

  1. 三遊亭円朝作 「真景累ヶ淵」

    ブログを始めるちょっと前、三遊亭円朝の「牡丹灯籠/乳房榎」を読んで、現在では演じられない部分が以外と面白かった事と口演とは違う魅力を感じ、これはいづれ「真景累ヶ淵」も読まねばと思いつつそのままになっていました。{/face_ase2/}7月頃「真景累ヶ淵」が平積みされ、

  2. 怪談

     映画「怪談」の試写会に行った。出だしは、一龍斎貞水の語りで始まったが、モノクロームの画面とよくマッチし、なかなか期待が持てた。 煙草売りの新吉と、三味線の師匠豊志賀は、出会いそしてひかれ合う。しかし20年前豊志賀の父を殺したのは、新吉の父であった。こ…

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