『恐るべき子供たち』ジャン・コクトー

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)傑作と名高いコクトーの「恐るべき子供たち」。難解なイメージが強くてこれまで手が伸びなかったが、新訳が出たことを機に読んでみた。

主な登場人物は、エリザベートとポールの姉弟、ポールの親友・ジェラール、エリザベートのモデル仲間・アガート、ポールの級友で憧れの存在・ダルジュロス、エリザベートに求婚するアメリカ人富豪・マイケルの6人。あくまで中心となるのは、エリザベートとポールの二人だ。本書は、近親相姦的な愛憎で結ばれた姉弟を描いた物語である。
二人の間には、外の世界とは異なる時間や道徳心が存在し、“無秩序”という秩序が支配している。その狂気じみた世界の舞台となるのが、二人の子供部屋。ここへ足を踏み入れる者たちは、最初は自由奔放な空気に魅了されるが、やがて自分たちのいるべき場所でないことを悟り、退場を迫られる。エリザベートとポールの関係が濃いので、二人の世界に入ってくるものは不純物のようにはじき出されてしまうのだ。

無邪気な雪合戦の場面から始まる前半は、退屈なほどゆっくりと進行する。厭世的な子供たちの生活には、けだるく投げやりな雰囲気が漂う。物語のスピードが加速するのは、後半のアガートの登場から。終焉へと向かって一気に駆け抜けていく展開に、大波にのみ込まれるような感覚を味わった。そして、衝撃的なラスト。
解説によると、コクトーの脳裏にはまず、結末の場面が浮かんだという。つまり、このラストのために「恐るべき子供たち」は書かれたといえる。それほど作者の思い入れの強いラストはとても印象的で、本を置いた後も、そのイメージはなかなか私の頭から消えることなく、びりびりと身体を痺れさせている。
登場人物たちの緻密な心理描写、イメージが飛躍する詩的な文体、物語の世界に引き込む圧倒的な力など、小説としては一級品で、本書のファンが多いのも肯ける。読みやすい訳文と相まって、物語に酔いしれた。

とはいえ、私はこの作品をどうも好きになれない。
小説を読む醍醐味は、そこで描かれる世界を味わうだけでなく、作者の思想を感じ取ることにあると思う。親友の死に直面し、その悲しみから阿片中毒者となったコクトーの死生観は、悲観的なものだ。人生は運命づけられ、そこから抜け出すことができない。エリザベートとポールが、結局子供部屋から出ることができなかったように。
だが果たして人間は、運命の前に立ち尽くすしかない、そんなちっぽけな存在なのだろうか。二人だけの子供部屋にこもり、思いを全うする彼らの生き方は、私にはあまりにも美しく映る。神聖なまでに純粋な世界は確かに魅力的だが、俗世の中でみっともなく生きるからこそ、見えてくる世界もあるのではないか。
これは、ともすれば、「恐るべき子供たち」の姿に共感してしまいそうになる、自分への戒めでもある。[Amazon]

フランス:中条省平・中条志穂・翻訳

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ジャン・コクトー/恐るべき子供たち

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