『クレイ』デイヴィッド・アーモンド

クレイ主人公の少年・デイヴィが住んでいる町に、一人の少年が越してきた。スティーヴンと名乗るその少年は、父親が死に母親も病気で入院したため、遠縁の叔母の家に身を寄せることになったのだ。デイヴィは、気味の悪いスティーヴンに誘われるまま、粘土で作った人形に命を与える儀式を手伝うことになる。そして、その人形が動き出して・・・。

『肩胛骨は翼のなごり』からデイヴィッド・アーモンドの作品を読んできたが、本書は、これまでの中で最も不気味な作品である。死や暴力といったものが色濃く現れ、メッセージ性も強い。
あとがきで金原瑞人さんが、「アーモンドの作品は、はずれがない」と書いているが、それはちょっと褒めすぎだろう。『秘密の心臓』は、私には完全に「はずれ」だった。
だが、この作品は良い。アーモンド作品の魅力は、現実世界の中に、ありえないような不思議な現象がすっと溶け込んでいるところにあると思う。
本書では、お酒やタバコをくすねたり、悪態をついたりケンカをしたり、異性を気にしたりといった、子供から大人に変化する年代の少年の姿が生き生きと描かれる。一方で、粘土の人形が動き出したり、人が突然消えたりといった現実には考えられない出来事も起こる。異質な要素が入ることで、登場人物たちの心理がより浮き彫りにされる、というのは、アーモンド作品の特徴なのかもしれない。

前半は、少年たちの日常が穏やかに綴られるが、“クレイ”と名づけられたモンスターの誕生で闇の世界が侵食してくるところから、一気に読ませる。ごく普通の少年・デイヴィが、不遇な家庭環境で歪んでしまったスティーヴンの邪悪な行為に加担し、罪悪感に追いつめられていく様子が、重苦しいほどの緊迫感を持って迫ってきて、鳥肌が立つ。
この、今にも崩れ落ちてしまいそうな危うい状況をどう収束させるのだろうと思っていると、ラストは何事もなかったかのように穏やかに幕を閉じる。謎めいた部分は残されているが、この物語はこういう形でしか終われないのだろう。

ダークな作品なのに不思議と希望を感じるのは、クレイジー・メアリーの存在が大きいと思う。信仰深く風変わりなために周囲からクレイジー(きちがい)扱いされているおばあさんだが、もしかすると彼女が本書の中で一番純粋な精神の持ち主なのかもしれない。適度に善良で適度に邪悪な人が多く存在する世界では、あまりに純粋な人間は浮いてしまう。
悪の象徴のようなスティーヴンの登場で始まる物語が、クレイジー・メアリーの場面で終わることに、作者の肯定的なメッセージを感じるのだ。そしてそれが、「神様はいるの?」というデイヴィの問いかけに対する答えにもなっているのだろう。

ただ、翻訳で難を挙げると、少年たちの会話によく出てくる「あいよ」という言葉づかいが、妙に気になった。「ああ」という意味合いの言葉をこの土地のなまりで訳したのだろうが、他の言葉は標準語なのに、なぜここだけ古くさい言葉を使うのか分からない。あとがきで説明がほしいところだ。[Amazon]

イギリス:金原瑞人・翻訳

Clay
David Almond
Clay (Hodder Children's Books)

    • ともよ
    • 2007年 9月2日 7:57pm

    今「クレイ」を読んでいる最中なのですが、
    私もよく出てくる「あいよ」が気になります。
    なんか、変ですよね・・違和感があるし
    会話がかみ合ってない印象が・・・
    でもお話自体はとてもよさそうなので
    じっくり読みます。

    • ぐら
    • 2007年 9月2日 9:42pm

    ともよさん、コメントありがとうございました。
    「あいよ」は最後までずっと引っかかります。
    この言葉が出てくると、なんか力が抜けるんですよね。
    「ああ」とか「おう」とか「そうだな」じゃなく、どうして「あいよ」なんでしょう・・・。
    原文がどうなっているのか、気になります。
    でも、この本はアーモンドらしい物語でよかったです。
    どんどん重苦しくなっていくのに、後味は悪くないのが不思議です。
    スティーヴンを「悪の象徴のような」と書きましたが、彼の孤独や弱さもひしひしと伝わってきて、胸にぐっときました。
    ただ、『闇の底のシルキー』は超えないかな、という感じです。

    • ともよ
    • 2007年 9月6日 6:00pm

    最後、とても優しい終わり方で
    やっぱりアーモンド好きだなあと思いました。
    やっぱり、神様はいるって思いたいなあ、、
    優等生的な主人公よりも、私はスティーブンに
    感情移入しました。言動は悪魔的なところがあるけど
    内に秘めた寂しさや苦しみが伝わりますよね。
    アーモンドは肩甲骨~とヘブンアイズを読んだことが
    あるんですけど、闇の底のシルキーも興味が湧きました。
    読んでみますね。

    • ぐら
    • 2007年 9月6日 9:11pm

    スティーブンのその後が気になります。
    こんな屈折した少年にも、アーモンドのまなざしはあたたかいんですよね。
    優しい方なんだろうな、と思います。
    『闇の底のシルキー』は必読です。
    この作品で、私はアーモンドのファンになりました。

  1. トラックバックはまだありません。