『塩の街』有川浩
ある日突然、日本各地に巨大な塩の結晶が飛来。その隕石の落下と時を同じくして人々が塩の柱と化す怪現象が起こる。「塩害」と名づけられたその現象によって、人口は大幅に減り、被害者の中には多数の政府要人が含まれていたことから、日本は事実上無政府状態となる。治安は乱れ、人々は塩化の恐怖を抱えながら暮らしている。
本書は、ひょんなことから一緒に暮らすこととなった航空自衛官の秋庭と、両親を亡くした女子高生・小笠原真奈の二人を中心に、塩害に覆われた世界で生きる人々の姿と世界の再生を描いた物語である。
有川浩の作品を読むと、むず痒くて仕方がない(もっとも、「図書館」シリーズと『クジラの彼』しか読んでいないが)。少女漫画的な人物設定や展開に、照れのような、居心地の悪さを感じてしまうのだ。
本書は『クジラの彼』などから比べるとトーンは押さえてあるので、「甘い」というより、「甘じょっぱい」といったところだろうか。でも、やはりむず痒い。まず、主人公の一人・秋庭であるが、長身の男前で、不愛想だが愛情深い。自衛官としても優秀で、非常時には頼りがいのある人物だ。そんな秋庭に偶然助けられ、一緒に暮らすことになった真奈は、世の女性たちの願望を体現した存在といえるだろう。まあそもそも、物語に「ありえない」と突っ込むこと自体、不毛なのだが。

とはいえ、物語の設定はおもしろい。
「塩害」というと、土地の被害を思い浮かべてしまうが、本書では、人が塩のモニュメントと化してしまうのだ。キラキラと光るたたずまいの美しさと、そこに潜む悲しみや残酷さが奇妙に同居していて印象的だ。
秋庭と真奈の前には、ひとり、ふたりと、さまざまな思いを抱えた人間が現れては消えていく。「塩害」というSFの世界であっても、ここで描かれる人々の喜びや悲しみは、普遍的なものだ。男女の恋情が、「世界の終末」という舞台を与えられたことで、より浮き彫りに、より切ないものとして心に迫ってくる。
この作品で伝えているように、本当に人を突き動かす力を持っているのは、「愛」とか「平和」といった抽象的なものではなく、「大切な人を救いたい」という個人的な思いなのかもしれない。
本書は、「塩の街」と「塩の街、その後」という2部構成になっている。初出の電撃文庫では前半だけだったのを、後日譚として数編書いたのだという。
「個人的な思い」を描いた物語だからだろうか、私はサイドストーリーである後半の方が楽しめた。[Amazon]



「塩の街<単行本>」を読む
『塩の街<単行本>』 有川浩/著(メディアワークス刊)塩の街電撃hpに掲載された短編を含む、単行本<リニューアル>バージョンです。あとがきを読むと判りますが、文庫版からだいぶ変更されているようです。やはり、対象年齢とか展開とか、レーベルの色っていうのは…
塩の街<有川浩>-(本:2008年12冊目)-
塩の街
出版社: メディアワークス (2007/06)
ISBN-10: 4840239215
評価:90点
第10回電撃大賞<大賞>受賞作にて有川浩のデビュー作でもある『塩の街』が、本編大幅改稿、番外編短編四篇を加えた大ボリュームでハードカバー単行本として刊行。(Amazon紹介文より。…
塩の街(文庫・単行本) 有川浩
電撃文庫版(左)イラストは昭次。単行本版(右)装丁・デザインは鎌部善彦。第10回電撃ゲーム小説大賞・大賞受賞作。
正体不明の落下物で塩が世界を埋め尽くす塩害の時代へ。塩は着々と街を飲み込み人に伝染して塩化。社会を崩壊さ