『旅立ちの翼』プリシラ・カミングズ
主人公のウィルは、11歳の少年。
父親が失業したため、家族で祖父の農場に身を寄せることになったが、両親は言い争ってばかり。そんな中、頼りにしていた祖父まで心臓発作で倒れる。さらに追い討ちをかけるように、ウィルが腹立ち紛れに撃った弾が運悪くガンに当たり、瀕死の重傷を負わせてしまう。
…悪いことは重なるものである。いや、そんなことを言いたい作品ではないのだが、ふんだりけったりの目に遭う主人公には同情を禁じえない。
突然の環境の変化と度重なる不幸に戸惑い、孤独を感じていた一人の少年と、群れからはぐれ傷ついた一羽のガン。同じような境遇のものが出会い、共に過ごし、少しずつ傷を癒して再び飛び立つまでを、主人公とガンの姿を重ね合わせて描き出した秀作である。派手さはないが、しみじみとした感動を与えてくれる。

アメリカの大自然を舞台に、渡り鳥と子どもの交流を描いた物語といえば、映画になった『グース』を思い浮かべる。少女がひな鳥を育て上げ、プロペラ機に乗って渡りの先導をする物語だ。こちらの主人公と渡り鳥の関係が母子のような親密なものに対し、本書の主人公とガンの物語はパラレルに展開しており、適度な距離感がある。時おり挟まれる、ガン視点の描写が効果的だ。読み手は傷を負ったガンの姿に、ウィル少年の痛みや孤独を見るのだ。
また、ウィルの周りの人間も丁寧に描かれている。
再就職の目処がつかず自信を失った父親。経済的にも精神的にも余裕がなくなって夫に辛くあたる母親。両親の不和に落ち込む孫を元気づけようとする優しい祖父。大人たちは、厳しい現実にもがきながら日々を過ごしている。傷つき、自分の道を見失ったその姿もまた、ガンの姿と重なる。
最初は自分の居場所を見つけられずに孤独だった主人公。だがラストでは、「これからもここで暮らしていく」という強い意志を持つまでになる。
成長とは、「痛み」を受け入れるところから始まるのだと思う。険悪な家庭、大好きな祖父の病、ガンを撃った罪悪感に苦しむウィルは、その痛みから逃げることなく、すべて受け止めていく。ガンが再び旅立つ日のためにじっと耐えていたように。
ウィルが涙を流しながらにっこりほほ笑むラストが、とても印象的である。[Amazon]
アメリカ:斎藤倫子・翻訳



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