『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)「本の虫」を自称していながら、自分がまだ何も読んでいない「ひよっこ」だと感じるのは、こんな作品に出合った時である。
イタリアの作家自体、片手で数えるほどしか知らない。ディーノ・ブッツァーティなんて聞いたこともない。だが紹介文によれば、「魔術的幻想文学の書き手として世界的に名高い」のだという。ただその「世界」に、私が入っていなかっただけなのだろう。
ともあれ、私にとっては初めて読む作家だったのだが、とても良かった。世界には凄い作家がいるものだ。プロットの巧みさ、切れ味鋭い筆致など、短篇のおもしろさを存分に味わうことのできる一冊である。

本書には、22の短篇が収められている。
ひろく日本の読者にブッツァーティの全体像を知ってもらいたいという意図で、数ある短篇の中から代表的なものを選んで収録されている。邦訳済みの作品も今では入手困難ということだから、このように一冊の作品集として読めるのは嬉しい限りである。
作家は嘘で真実を語る、とはある映画の中のセリフ。
「幻想文学」の定義が私にはよく分からないのだが、作者は手を変え品を変えて、この世の真実を見せてくれる。SF、ホラー、風刺、星新一のショート・ショートを連想させるものなど、さまざまなテイストで彩られているが、ここでは人間の心の奥深くに潜む不安や恐怖、エゴイズムといったものが描き出されている。神や聖人などの人ならぬ存在も、実に人間的だ。
物語の中で、戦争、医療、教育といった現代社会が抱える問題がシニカルな視点で暴かれ、思わず苦笑してしまう。
作者自身「性格的に、骨の髄からペシミストである」と語っているとおり、作品は悲観的な色合いが強い。しかし、不思議と嫌な感じはしない。それは、欲望や苦しみに満ちたこの世界を、作者が楽しんでいるからなのだと思う。そこにこそ、幸せがあると知っているのだ。「天国からの脱落」で、清き天国を捨てて望んで下界に落ちていった聖人は、作者の姿なのかもしれない。

また彼の作品は、視覚に訴えるところが特徴的だ。
「コロンブレ」の、伝説の怪物の影に怯える男、「グランドホテルの廊下」の、廊下で様子を窺いながら身を潜める人たち、「神を見た犬」の、悪事を見抜くかのようにじっと見つめる犬など、その映像がパッと頭に浮かんでくる。
22篇、それぞれ味わい深い作品ではあるが、中でも「七階」は秀逸。文章でここまで一人の男を追いつめられるとは。いやはや、怖い。[Amazon]

イタリア:関口英子・翻訳

  1. ディノ・ブッツァーティ 神を見た犬

     光文社古典新訳文庫は素晴らしい企画である。どれをとっても非常に興味深い作品が目白押しで、すべて読みたいと思うくらいだ。
     そんな中、今まで読んだ中で一番面白かったのは文句なしにロダーリの「猫とともに去りぬ」だ

    • piaa
    • 2007年 9月12日 9:57pm

    私も読みました。とても面白い、興味深い作品集でした。
    私もこの本を手にとるまでこの作家のことは全く知りませんでした。
    本当にまだまだ知らない素晴らしい作家がいるのではないかと思わせてくれる本でした。そういう意味でも光文社古典新訳文庫は素晴らしい企画ですね。
    「箱舟の航海日誌」ともどもTBしておきます。

    • ぐら
    • 2007年 9月12日 10:22pm

    別のブログからpiaaさんの『神を見た犬』の書評を読んで、いま自分のブログに帰ってきたところなので、コメントを読むのは不思議な感覚です。
    読後、彼の他の作品が気になってアマゾンで見てみると、既にレビューが書かれていました。
    世の本好きにも感心してしまいました。

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