『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)同時期に読んだ、イーユン・リーの『千年の祈り』 は、うまいなぁと思うものの、あまり私の好みに合わなかった。けれど、同じく英語で創作するアジア系作家の作品集である本書には、感じ入るものが多かった。

作者のラッタウット・ラープチャルーンサップ(長い!)は、タイ出身。7つの物語が収められたこの短篇集は、タイを舞台に家族や友人の絆が描かれている。
どれも、うまい。いや、文章力や小説としての「巧さ」なら、前述のリーの作品にも認められる。ただ彼女の場合は、「こんなものも書けますよ」といろいろな作風を提示した、模範解答のような「巧さ」に感じてしまったのだ(ただし、「市場の約束」「不滅」の二篇は抜群によかった)。
あくまで独断的な意見ではあるが、私は本書のような、その人間にそっと寄り添うような小説の方が好きである。こういった、人生の断片を切り取る作品は特に。

急速に経済発展を続けている国、タイ。
都市部と農村の経済格差や、リゾートの現状、進出する外国企業の存在や、それに伴い生まれた混血児など、タイ人の視点で描かれた物語は、新鮮に映る。ここで描かれたタイに、少し昔の日本の姿を重ね合わせる人は少なくないだろう。行ったこともないのに、不思議と懐かしい。
7篇中、「ガイジン」「カフェ・ラブリーで」「徴兵の日」「プリシラ」「闘鶏師」の5篇は、十代の少年少女が主人公。右手が不自由になり、タイで暮らす息子の元に引き取られる老人が主人公の「こんなところで死にたくない」は、アメリカ人ということもあり、異色だ。
それぞれ味わい深い作品で甲乙つけがたいが、「カフェ・ラブリーで」「闘鶏師」は、ぐっとくるものがあった。子どもたちの暮らしに影を落とす貧困に、目を向けずにはいられない。登場人物たちの心の動きや情景を細やかに描き出すこの作家の感覚は、日本人に合うのではないだろうか。
カラリとした明るい読後感を残す「こんなところで死にたくない」も捨てがたい。タイ人の嫁と孫に最初は戸惑っていた男が、周囲の目を気にせず堂々とダンスをする息子夫婦の姿を見て誇らしげな気持ちになる場面がよかった。

全体を通してみると、ひとりひとり、凛とした佇まいが印象的である。うまくいかないこともある。相手に調子を合わさなければならない時もある。それでも、卑屈にならず生きていく。そうすれば、いつか光が見えてくる。哀しみだけでなく、救いとなるような瞬間も描いているところに、作者のあたたかな眼差しを感じる。
ラストに反骨精神みなぎる「ガイジン」は、弱冠25歳の時に発表された作品という。そういえば、スピルバーグが傑作・『激突!』を撮ったのと同じ年齢だな、とふと思う。今後がとても楽しみな作家である。[Amazon]

タイ:古屋美登里・翻訳

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Rattawut Lapcharoensap
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