『くだものだもの』俵万智 選

くだものだもの (ランダムハウス講談社文庫 た 2-1)くだものだもの。「にんげんだもの」より、語呂がいい。思わず口の中で言葉を転がしてしまう。
本書は、くだものが出てくる作品を集めたアンソロジーである。短篇小説からエッセイ、詩、落語まで各種取り揃えた、くだものづくしの32篇だ。選者は、歌人の俵万智さん。
普通、アンソロジーというのは一つ一つの作品が独立しているので、どこから読んでも自由である。が、本書は違う。俵さんいわく、「ぜひ、一ページ目から順番に読みすすめてください。そのほうが、きっとおもしろく読めると思います」の、ちょっと変わった一冊なのだ。作品の選別だけでなく、その並べ方にも工夫が凝らされた本書は、すっかり俵万智さん色に染まっている。

「桃太郎」の昔話、宮澤賢治の「やまなし」、あまんきみこの「白いぼうし」、芥川龍之介の「蜜柑」といった有名どころは、当然押さえてある。すでに読んだことのある作品でも、こうして一同に集められたものを読むのは新鮮である。
くだものの実に注目する中で、種を描いた立原えりかの作品がひときわ目を引いた。その名も、「くだもののたね」。どうせなら、これを最初か最後にもってきてほしかった。
同じくだものでも、作者によって違った表情を見せるのも、おもしろい。また、くだものはそれぞれ、独自のイメージをその身にまとっているようだ。例えば、みかんは爽やかさを、メロンはとっておきで特別なもの、バナナはその形状から奇怪さやタブーを連想させ、桃は官能的…。

本書を読み進めて行くうちに、なぜか私はもやもやとした思いでいっぱいになった。何かが足りない。何か、とても大事なものが。あっ、イチゴがない!かなりポピュラーなくだものなのに、ここにはイチゴが織り込まれた作品がないのだ。
そういえば、イチゴを使ったお菓子(ケーキやジャムなど)はたくさんあるのに、イチゴそのものが登場する作品って、案外思いつかない。本書には、他のベリー系のくだものも全く出てこない。これがヨーロッパだと、また違ってくるのかもしれない。次は是非、海外編のくだものアンソロジーを編んでほしい。
読書の秋。食欲の秋。そして、実りの秋。
今の時期に読むのに、ぴったりの一冊ではないだろうか。ランダムハウス講談社文庫は他の文庫本より価格が高めだが、これはお得である。[Amazon]

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