『双生児』クリストファー・プリースト

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)本文一ページ目から、一歩も動けなくなってしまった。
なんとか気を取り直して先へ進んだものの、いくつもの「?」に阻まれ、読み通すのにかなり時間がかかってしまった、あなどれない一冊である。

第二次大戦中に、英空軍爆撃操縦士でありながら、良心的兵役拒否者でもあったJ・L・ソウヤーとは何者なのか?
ジャックとジョー。同じイニシャルを持つ双子の人生を交互に、そして第三者の視点や資料も交えて浮かび上がらせていく。
現在と記憶が複雑に入り組んだ物語の謎を解く鍵は、タイトルにある。英米系の小説のタイトルは、たいていそっけないほど愛想がないが、本書にはこれよりふさわしいものは考えられない。日本語版では敢えて違うタイトルにしたところに、訳者のたくらみを感じてしまうのは私だけだろうか。『奇術師』を読んだ人の方が、ミスリーディングされやすいかもしれない。

それにしても、プリーストの頭の中は一体どうなっているのだろう。
この作品を書くために彼が目を通した参考文献は、120冊にもなるという。きちんと史実を押さえた上で書かれたものだから、人物が立体的に動いて物語に説得力があるのだろう。普通、絡まっていた糸は次第に解けていくものだが、本書はむしろ逆。章を追うごとにいっそう謎は深まり、疑問符ばかりがまとわりつく。

とはいえ、あちこちに張り巡らされた巧妙なトリックに目を奪われがちだが、本書が単なるSFミステリーであれば、私はここまで心を揺さぶられることはなかったかもしれない。
ボート競技に汗を流していた仲の良い双子はともに、否応なく「戦争」という大きな力に飲み込まれていく。自分の信念に従って別々の道を選んだ二人だが、幸福を望む思いは同じ。
歴史に「if」がないことを、おそらく作者は誰よりも承知していたと思う。
それでも、トリックを使ってこの壮大な作品を書き上げたのだ。そこに私は、作者の平和への強い祈りを感じずにはいられない。そしてまた、争いのない、平和な世界で生を享けることの幸せを―。[Amazon]

イギリス:古沢嘉通・翻訳

The Separation
Christopher Priest
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  • コメント (3)
  1. 以前「ブログ記事の盗用はやめてください!」のところでコメントしたことがある真理子です。あれ以来、「本虫のふん」さんをマメに読むようになっています。

  2. 双生児

     クリストファー・プリーストの「双生児」を読み終えました。過去記事を調べたら、12月21日に読み始めたようになっているので、読了に二週間近くかかったことになります。この本、図書館で借りたんですが、二ヶ月くらい順番待ちをしたんですよ。で、手にとって見たら500ヒ…

    • ぐら
    • 2008年 1月6日 4:13pm

    コメントありがとうございます。
    あの時は、最初に真理子さんが書き込んでくださって、とても嬉しかったのを覚えています。
    拙いレビューブログですが、これからもよろしくお願いします。

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