『魔使いの秘密』ジョゼフ・ディレイニー
- ジョゼフディレイニー
- 東京創元社
- 2625円
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書評
『魔使いの弟子』、『魔使いの呪い』につづく、第三段。
シリーズも三作目となると、物語の方向性や手ごたえといったものが、ある程度掴めるようになってくる。この「魔使いシリーズ」はおもしろい。ハリー・ポッターの新刊予約ほど話題になっていないようだが、読み応えのある良質のファンタジーである。
大筋としては、素直で優しい主人公がさまざまな試練を乗り越え、成長していくヒーローもの。ボガード退治で大怪我を負った師匠にかわって孤軍奮闘する、いわば「試練の巻」とも言うべき今回のトムの姿は、まさにそのスタイルを継承している。
だが、このシリーズは、そういったヒーローもののファンタジーに収まりきらない、プラスアルファがあり、それが物語に深みと複雑さを生み出しているのだ。
前二作のレビューで、このシリーズでは「登場人物たちは、単純に「善悪」の基準で線引きすることができない。その二つの間で揺れ動く、矛盾を抱えた存在なのだ。」と書いたが、それは今回も当てはまる。
主に描かれるのが、師匠のせつない恋模様だ。愛したためにラミア魔女を封印しなかった自分を棚上げして、アリスを信用するなとトムに注意する師匠。自分と同じ苦しみを弟子に味あわせたくないとの思いなのだろうが、実に矛盾している。
けれど、これが人間なんだろうな、と思う。さまざまな感情が入り乱れる中で、悩んで苦しんで、最善と思うものを選んでいく。そんな「揺れ」こそが、この作品の魅力なのだ。
それにしても、ここに登場する男性陣の、爪の甘さ・優柔不断さは何なのだろう。どれだけ強そうに見えても、女性に頭があがらないというのは情けなくも、可笑しい。
あとがきにあるように、「魔使い」とは「spook(幽霊・変人)」を訳した訳者の造語である。この名前から分かるように、皆の安全を守るために命をかけて働く彼らを人々は怖れ、軽蔑している。トムたちが窮地に陥った時、助けになるのが人間ではなく(魔使いの兄を除いて)、魔女のアリスというのも、皮肉な話である。
さて、本書では、師匠の元弟子・モーガンという人物が新たに登場する。闇の力に魅せられた姿は、『スター・ウォーズ』の世界を彷彿とさせる。師を逆恨みし、自らの力を過信して冬の魔王・ゴルゴスを召喚しようとするなどやりたい放題なのだが、その中で死霊を呼び出して遺族と交信させる場面に、特に不快感を抱いた。多分それは、「死」というものを、自分を権威づけるひとつの道具として使っているからだと思う。
モーガンは、物語の登場人物に過ぎないのだろうか。オーラだ、守護霊だ、としたり顔で人の生死を語る人間にも、私は同じものを感じてしまう。
予知や透視といった超能力があればどんなに楽しいだろう、と思うことがある。しかし、そんな能力があったところで、必ずしも人は幸せになれないし、人を幸せにすることもできない。
魔使いたちが魔法のような超人的な力を使うのではなく、自分の知識と勘と勇気で魔女やボガードに立ち向かっていくところに、深く考えさせられるのだ。[Amazon]
イギリス:金原瑞人/田中亜希子・翻訳
The Spook’s Secret (Red Fox)
Joe Delaney

※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

魔使いの秘密

書籍「魔使いの秘密」読了。
魔使いの秘密ジョゼフ・ディレイニー東京創元社2625円Amazonで購入書評/SF&ファンタジー_uacct = \”UA-918914-3\”;urchinTracker();
書籍「魔使いの秘密」 ジョゼフ・ディレイニー・著 金原瑞人・田中亜希子・訳 東京創元社・刊を読了。
これも本が好き!プロジェクト…
はじめまして!
コメント&TBありがとうございます。
非常にシッカリとこのシリーズを分析レビューされていて、思わずそうそう!それが言いたかったのよ、という感じです。
この人間としての脆さを抱えた、超人的な力の存在しない魔使いという設定が私も大好きです。
Bongoさん、こんばんは。
このシリーズの魅力を伝えるのって、難しいですよね。
ありふれたファンタジーのようでいて、何かが違う。
できることなら、「とにかく読めば分かる!」のひと言で済ませたかったです。